ギリシャ神話の地図
ネストル父アキレウス友メネラオス好敵手メムノン仇パトロクロス弔った友トロイア戦争戦争

アンティロコス

Ἀντίλοχος英雄

アキレウスの親友パトロクロスが討たれた。その知らせを、誰かがアキレウスに伝えなければならない。熱い涙を流しながら英雄の前に立ったのは、ひとりの若者だった。パトロクロスが倒れた。亡骸をめぐって、いま戦っている。鎧はヘクトルに奪われた。アキレウスは両手で灰をつかんで頭にかぶり、地面に身を投げ出した。若者は泣きながら、その両手をしっかりと握っていた。アキレウスが刀で自分の喉をかき切るのではないかと恐れたからである。

この若者がアンティロコスである。

では、『イリアス』で最もつらい知らせを運んだ若者の物語を見ていこう。

アンティロコスは、ギリシャ軍の長老ネストルの息子である。父は、この息子を「走るのも戦うのもとび抜けていた」と自慢した。

『イリアス』の終わり近く、死んだパトロクロスを弔う競技会が開かれた。花形は戦車競走。出場の前に、父ネストルは息子を呼んで、こまごまと勝ち方を教えた。お前の馬は足が遅い。だから腕で勝て。折り返しの目印の近くで、いかに内側を回るかが勝負だ。

レースの途中、道が狭くなった所で、アンティロコスは無理やりメネラオスの戦車を追い越した。ぶつかるのを恐れたメネラオスが手綱を引いたすきに、前へ出たのである。アンティロコスは2着に入った。

表彰の場で、メネラオスは怒って立ち上がった。ずるい手で私の戦車を邪魔したのではないと、海の神にかけて誓えるか。アンティロコスはすぐに頭を下げた。お許しください、私はあなたよりずっと若い。若い者は気がはやり、思慮が浅いものです。賞品の雌馬はお返しします。あなたの心から一生締め出されるくらいなら、家にあるほかの物もなんでも差し上げたい。

メネラオスの心は、実った麦の穂が露にぬれるように和んだ。お前は今までそんな軽はずみな男ではなかった。お前も、父も、兄弟も、私のために苦労してくれた。そう言って、雌馬をアンティロコスに返してやった。一人の女性をめぐって言い争い、英雄が戦場を離れるところから始まった『イリアス』が、終わり近くで、若者が先に頭を下げて争いを収める姿を描いている、と読むこともできる。

同じ競技会の徒競走では、3着で最下位の賞を受け取ったアンティロコスが、笑いながらアキレウスをほめた。俊足でアキレウスにかなう者はいない。アキレウスはこの言葉を喜び、賞品に黄金を上乗せしてやった。

アンティロコスの最期は、『イリアス』の外にある。失われた叙事詩『アイティオピス』の要約によれば、トロイアの援軍として来たエチオピアの王で、曙の女神の息子メムノンが、アンティロコスを討った。アキレウスはその仇としてメムノンを殺す。紀元前5世紀の詩人ピンダロスは、この死をもっと詳しく描いた。父ネストルの戦車の馬が矢に射られて動けなくなり、メムノンが槍を構えたとき、父に呼ばれた息子は身代わりに立ちはだかって死んだ、と。

『オデュッセイア』は、アキレウスの骨がパトロクロスの骨とまじり合って納められ、そのそばにアンティロコスの骨も納められたと語る。アキレウスがパトロクロスの次に重んじた仲間だった。

この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ホメロス『オデュッセイア』、アルクティノス(伝)『アイティオピス』、ピンダロス『祝勝歌集』

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パトロクロスの死をアキレウスに伝える役を負う。知らせた後、アキレウスが自害しないよう両手を握って押さえる。『イリアス』で最も重い知らせを運ぶのが、この若者である。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

パトロクロスの葬礼競技の戦車競走で、父の助言どおり狭いところで無理に追い越してメネラオスを抜く。抗議されると、若さを理由に非を認めて賞を譲り、メネラオスも怒りを収める。争いの収め方として、1巻のアガメムノンとアキレウスの対応と正反対に置かれている。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

死は『イリアス』の外にある。『アイティオピス』の要約ではメムノンに討たれ、アキレウスがその仇としてメムノンを殺す。父ネストルを庇って死んだとする形はピンダロスが詳しく語る。パリスの矢で馬を射られてネストルの車が動かなくなり、メムノンが槍を構えたとき、老父に呼ばれた息子が身代わりに立って死ぬ。

アルクティノス(伝)『アイティオピス』 前7世紀頃、ピンダロス『祝勝歌集』 前5世紀前半

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ホメロスはその死の場面を描かないが、『オデュッセイア』では二度、間接的に触れる。4.187-188 でペイシストラトスが兄を「輝かしい曙の子に殺された」と悼み、3.109-112 でネストルが「走るのも戦うのもとび抜けていた」息子を嘆く。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

『オデュッセイア』の二度目の冥界の場面では、アキレウス・パトロクロス・アンティロコスの三人が並べて挙げられ、アキレウスがパトロクロスの次に重んじた仲間とされる。骨も同じ塚に納められた。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

徒競走で最下位の賞を取ったアンティロコスは、笑いながら、足でアキレウスにかなう者はいないとほめ、アキレウスは喜んで賞に金を半タラントン加えた。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

抗議したメネラオスに、アンティロコスは若さゆえの過ちと認め、賞の雌馬を差し出し、家の宝も譲りたいと言う。メネラオスの心は露にぬれる麦の穂のように和み、雌馬を彼に返した。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

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このページの出典(4件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『イリアス』
  2. 前8世紀頃ホメロス『オデュッセイア』
  3. 前7世紀頃アルクティノス(伝)『アイティオピス』
  4. 前5世紀前半ピンダロス『祝勝歌集』