ギリシャ神話の地図
ニュクス母エレボス父カオス祖母アイテル兄弟アトラス隣人ヒュプノス母の連れエオス曙
花と小鳥を手に空に浮かぶ「昼」。ブグローの絵。

ヘメラ

Ἡμέρα神

花と小鳥を手に空に浮かぶ「昼」。ブグローの絵。 『昼』 ウィリアム・アドルフ・ブグロー 1884年Public domain

英語で、つかの間ではかないものを ephemeral という。もとは「一日しかもたない」という意味で、病気や生き物の短い命について使われた言葉だった。その中にある「日」の部分は、ギリシャ神話の昼の女神、ヘメラの名と同じ言葉である。

昼そのものが女神になった、ヘメラの姿を見ていこう。

ヘシオドスの『神統記』によれば、世界のはじめに何もない空間カオスが生じ、そこから闇と夜が生まれた。夜は闇と交わって、天の上の輝く大気と、昼ヘメラを産んだ。昼は、夜の娘なのである。

母と娘は、一つの館を分け合って暮らしている。『神統記』は、その館を世界の果てに置いた。巨人アトラスが天を頭と腕で支えて立っている、そのそばである。夜と昼は、館の大きな青銅の敷居のところで近づき、声をかけ合ってすれ違う。一方が館の中へ入っていくとき、もう一方は外へ出ていく。二人が同時に家にいることは、決してない。外へ出た一方が大地の上をめぐるあいだ、もう一方は家で自分の出番を待つ。昼は人々に、すべてを見せる光を携えて出かけ、夜は、死の兄弟である眠りを腕に抱いて出かけていく。

昼と入れ替わりに、眠りを腕に抱いて出かけていく夜。
昼と入れ替わりに、眠りを腕に抱いて出かけていく夜。『夜と眠り』 イーヴリン・ド・モーガン 1878年Public domain

ヘメラの物語は、ほとんどこれだけしか残っていない。それでも、毎日決まった時刻に交代する母と娘の姿は、昼と夜のめぐりそのものを、そのまま神話にしたものだと言える。

一方、『イリアス』や『オデュッセイア』では、「昼」はふつうの言葉として使われるだけで、女神としてのヘメラは登場しない。夜明けを告げ、ばら色の指で空を染める役を担うのは、曙の女神エオスのほうである。

この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』

この物語の人々

ローマ以後の語り

英語 ephemeral は、ギリシャ語 ephēmeros「その日かぎりの」から来ていて、epi「〜の上に」と hēmera「日」を組み合わせた語。英語では1560年代に、もとは病気や寿命について「一日しか続かない」の意味で使われ、1630年代から「はかない、つかの間の」へ広がった。

ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』 2001年〜(2026年9月閲覧)

もっと詳しく

『神統記』では、夜ニュクスが闇エレボスと交わって、上層の大気アイテルと昼ヘメラを産む。夜が昼の母という順序になっている。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

世界の果て、アトラスが天を支えて立つ場所に夜の館があり、ニュクスとヘメラはその青銅の敷居で近づいて言葉を交わし、すれ違う。一方が館に入るともう一方が外へ出て大地をめぐり、二人が同時に館の中にいることはない。ヘメラは人々に光を、ニュクスは死の兄弟である眠りを手に携えている。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

ホメロスでは ἦμαρ・ἡμέρη は「日、昼」を表す普通の語で、女神ヘメラは登場しない。夜明けを告げる女神としての役割は、ホメロスでは曙の女神エオスが担う。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

今の言葉に残る

はかない / ephemeral英語 ephemeral は名詞 ephemera に -al を付けた語で、ギリシャ語 ephēmeros「毎日の、その日だけの」から来ている。epi「〜の上に」と hēmera「日」を組み合わせた語で、hēmera は、ヘシオドス『神統記』で夜から生まれる昼の女神ヘメラの名と同じ。英語では1560年代に、もとは病気や寿命について「一日しか続かない」の意味で使われ、1630年代から「つかの間の」という広い意味になった。

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このページの出典(4件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『イリアス』
  2. 前8世紀頃ホメロス『オデュッセイア』
  3. 前700年頃ヘシオドス『神統記』
  4. 2001年〜(2026年9月閲覧)ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』