ギリシャ神話の地図
カオス親ニュクス姉妹で妻ヘメラ子アイテル子オデュッセウス呼び出した英雄ヘラクレス連れ出した英雄冥界重なる場所

エレボス

Ἔρεβος神

光は、闇から生まれた。ギリシャ神話の世界のはじまりを語る『神統記』は、そう語っている。その闇の名が、エレボスである。

では、神でもあり場所でもあるこのエレボスが、どんなふうに語られてきたのか見ていこう。

『神統記』によれば、世界のはじめにまず生じたのは、ぽっかりと口を開けた空隙、カオスだった。そのカオスから、エレボスと黒い夜が生まれた。エレボスには、カオスのほかに親はいない。

やがて夜がエレボスと交わり、二人の子を産む。上空に澄みわたる輝きと、昼である。闇と夜という暗いものどうしから、光と昼が生まれた。世界の系図の最初のほうに、こんな逆さまのような親子関係が置かれている。

ところが、『イリアス』や『オデュッセイア』に出てくるエレボスは、神というより場所の名前だ。オデュッセウスが冥界の入口で死者の霊を呼び出すとき、犠牲の羊の頭を「エレボスの方へ」向けるよう命じられる。穴に血を注ぐと、死者の魂が「エレボスから」群がり出てきた。『イリアス』では、英雄ヘラクレスが冥界の番犬を「エレボスから」連れ出した遠征のことが語られる。

生贄の血に引き寄せられて、地の底から死者の霊が現れる。剣を手に待ち受けるのがオデュッセウス。
生贄の血に引き寄せられて、地の底から死者の霊が現れる。剣を手に待ち受けるのがオデュッセウス。『生贄の最中にオデュッセウスの前に現れるテイレシアス』 ヨハン・ハインリヒ・フュースリ 1780〜1785年Public domain

『神統記』も、系図の箇所を離れると、エレボスを地下の暗い領域の名として使っている。ゼウスに雷で打たれた者は「エレボスへ」送られ、地下に閉じ込められていた百の腕の巨人たちは「エレボスから」光のもとへ連れ戻される。

世界のはじまりの闇の神であり、死者たちがうごめく地下の暗がりそのものでもある。エレボスは、二つの顔を行き来する名前だ。

この物語の出典: ホメロス『イリアス』、ホメロス『オデュッセイア』、ヘシオドス『神統記』

この物語の人々

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『神統記』で、最初に生じたカオスから「エレボスと黒い夜」が生まれる。エレボスには親としてカオス以外の存在はない。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

夜がエレボスと交わって、アイテル(上空の澄んだ輝き)とヘメラ(昼)が生まれる。闇と夜から光と昼が生まれるという逆説的な系譜。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

ホメロスではエレボスは神ではなく場所として使われる。オデュッセウスが冥界の入口で供犠をするとき羊の頭を「エレボスの方へ」向け、死者の魂は「エレボスから」群がり出てくる。『イリアス』では、ヘラクレスがハデスの犬を「エレボスから」連れ出す遠征に触れる。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

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ヘシオドスでも、ゼウスが雷で打ったメノイティオスを「エレボスへ」送り、百手の巨人たちを「エレボスから」光のもとへ連れ戻すなど、地下の暗い領域の名として使われている。人格神としての側面は系譜の箇所にほぼ限られる。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

喜劇『鳥』の宇宙創成のパロディでも「最初にカオスと夜と黒いエレボスと広いタルタロスがあった」と、原初の存在として名が挙がる。

アリストパネス『鳥』 前414年上演

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このページの出典(4件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『イリアス』
  2. 前8世紀頃ホメロス『オデュッセイア』
  3. 前700年頃ヘシオドス『神統記』
  4. 前414年上演アリストパネス『鳥』