アポロドーロスの摘要では、王権の印である黄金の仔羊をめぐって兄弟が争う。妻アエロペが情人テュエステスに仔羊を渡し、テュエステスが王位を得るが、ゼウスが太陽の進路を逆に回してアトレウスの正当性を示す。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
Ἀτρεύς人間
自分の弟に、弟の息子たちの肉を料理して食べさせた王がいる。ミュケナイの王アトレウスだ。
トロイア戦争の総大将アガメムノンと、ヘレネの夫メネラオス。二人はよく「アトレウスの子ら」とひとまとめに呼ばれる。その父がどんな男だったのか、見ていこう。
アトレウスは、呪われた一族の三代目にあたる。祖父は、神々に罰されて冥界で永遠にじらされ続けるタンタロス。父はその息子ペロプスである。
アポロドーロスの伝える話は、一頭の羊から始まる。アトレウスは、自分の群れでいちばん見事な獣を女神アルテミスに捧げると誓っていた。ところが群れに黄金の仔羊が現れると、誓いを守らず、仔羊を絞め殺して箱にしまいこんだ。その妻は、アトレウスの弟テュエステスと通じていて、この仔羊をこっそり弟に渡してしまう。
ちょうどそのころ、ミュケナイの人々は、ペロプスの一族から王を選べという神託を受けて、兄弟を呼び寄せていた。誰が王になるかを話し合う場で、テュエステスは言った。黄金の仔羊を持っている者が王になるべきだ。アトレウスが同意すると、テュエステスは仔羊を取り出して見せ、王になった。
ゼウスは、アトレウスの側についた。伝令神ヘルメスを遣わして、新しい取り決めを持ちかけさせる。太陽が逆向きに進んだら、アトレウスが王になる。テュエステスが承知すると、太陽は東に沈んだ。神のしるしは明らかだった。アトレウスは王位を取り戻し、弟を国から追い出した。
やがてアトレウスは、妻と弟の不義を知った。そして、仲直りしようと使いを送って弟を呼び戻す。弟の三人の息子たちは、ゼウスの祭壇にすがっていたが、アトレウスは彼らを殺し、手足を切り分けて煮込み、手足の先だけを除いて、父親の前に出した。弟が腹いっぱい食べ終えると、アトレウスは残しておいた手足を見せ、ふたたび国から追い払った。
報いは、次の世代に回ってくる。テュエステスは、仕返しの方法を神託に尋ね、自分の娘とのあいだに子をもうければよいと告げられた。こうして生まれたのがアイギストスである。成長したアイギストスはアトレウスを殺し、父を王座に戻した。のちにアトレウスの息子アガメムノンを、トロイアから帰った日に殺すのも、このアイギストスだ。アイスキュロスの悲劇『アガメムノン』では、アイギストス自身が、あの宴の話を自分の復讐の理由として語っている。
ところが、『イリアス』には、この血なまぐさい兄弟の話は一つも出てこない。王の印の杖が受け継がれてきた道筋を語る場面では、アトレウスは死ぬときに杖を弟テュエステスに渡し、テュエステスはそれをアガメムノンに譲った、とだけある。兄弟の争いは、影も形もない。
この物語の出典: ホメロス『イリアス』、アイスキュロス『オレステイア三部作(アガメムノン・供養する女たち・慈しみの女神たち)』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
アポロドーロスの摘要では、王権の印である黄金の仔羊をめぐって兄弟が争う。妻アエロペが情人テュエステスに仔羊を渡し、テュエステスが王位を得るが、ゼウスが太陽の進路を逆に回してアトレウスの正当性を示す。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
テュエステスは仕返しの方法を神託に問い、自分の娘との間に子をもうけよと言われてアイギストスをもうける。成長したアイギストスはアトレウスを殺し、テュエステスを王位に戻した。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
ホメロスのアトレウスはほとんど王笏の系譜にしか出てこない。しかもそこではペロプスから王笏を受け、死に際して弟テュエステスに渡し、テュエステスがアガメムノンに渡すという、ごく穏やかな継承になっている。後代に有名な兄弟の骨肉の争いは影も形もない。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃
アトレウスは和解を装ってテュエステスを招き、その三人の子を殺して料理し、父親に食べさせた。食べ終えてから手足を見せ、国外に追った。アイスキュロス『アガメムノン』ではアイギストス自身がこの話を語り、自分の復讐の理由として示す。
アイスキュロス『オレステイア三部作(アガメムノン・供養する女たち・慈しみの女神たち)』 前458年、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
この所業は、タンタロスの罪、ペロプスがミュルティロスにかけられた呪いに続く「アトレウス家の呪い」の一段として語られる。アガメムノンの殺害も、オレステスの母殺しも、この連鎖の続きとして説明される。
アイスキュロス『オレステイア三部作(アガメムノン・供養する女たち・慈しみの女神たち)』 前458年、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
「アトレウス家(アトレイダイ)」という呼び方自体は『イリアス』からあり、アガメムノンとメネラオスを指す。呪われた一族という含みが加わるのは、悲劇が兄弟の争いを主題にして以降である。
ホメロス『イリアス』 前8世紀頃、アイスキュロス『オレステイア三部作(アガメムノン・供養する女たち・慈しみの女神たち)』 前458年