ギリシャ神話の地図
ステュクス母ゼウス主人アテナ像の主オケアノス祖父ティタノマキア大戦アレス父(異伝)
船の舳先に降り立つ勝利の女神。サモトラケのニケ。

ニケ

Νίκη神

船の舳先に降り立つ勝利の女神。サモトラケのニケ。 『サモトラケのニケ』 作者不詳 写真は2024年 ルーヴル美術館。写真 WilfredorCC0

スポーツ用品のナイキは、社名をギリシャの勝利の女神から取った、と自ら説明している。その女神の名がニケ。英語読みでナイキになる。

『神統記』によれば、ニケの母は冥界を流れる川の女神ステュクス、父はティタンと呼ばれる古い神々の一人である。一緒に生まれたきょうだいは、競争心、力、そして暴力。勝利は、力や暴力と同じ家に生まれた。

この一家の運命を決めたのは、神々の世代交代の戦いだった。ゼウスが古い神々ティタンと天の支配を争ったとき、ゼウスは呼びかけた。自分とともに戦う神には、これまでの権利を保障し、権利のなかった者には新しく与えよう。真っ先にオリュンポスへ駆けつけたのが、子どもたちを連れたステュクスだった。祖父である大河の神オケアノスの知恵だったという。

ゼウスはこの一家を重んじた。ステュクスを神々の誓いの証とし、その子らはいつも自分のそばに住まわせた。以来、ニケも力も暴力も、ゼウスの行くところにしかいない。勝利はゼウスの側を離れない、という形で語られているのである。

一方、『ホメロス風讃歌』の中には、軍神アレスを「戦の勝利の父」と呼ぶ歌もある。系譜は一つに決まっていなかった。『イリアス』や『オデュッセイア』には、女神としてのニケは出てこない。

ニケが人の目に最もよく触れたのは、神殿の中だった。旅行家パウサニアスによれば、アテナイのパルテノン神殿のアテナ像は、手の上に高さ1.8メートルほどのニケ像を載せていた。オリュンピアの巨大なゼウス像も、右手に黄金と象牙のニケ像を持っていた。大神の手のひらに乗る小さな勝利の女神。それがニケのおなじみの姿だった。

船の舳先の形をした台の上で、翼を広げる勝利の女神。「サモトラケのニケ」と呼ばれる像で、パリのルーヴル美術館にある。
船の舳先の形をした台の上で、翼を広げる勝利の女神。「サモトラケのニケ」と呼ばれる像で、パリのルーヴル美術館にある。『サモトラケのニケ』 写真: Wilfredor 2024年撮影 パリ、ルーヴル美術館CC0

翼も、この女神のしるしだった。喜劇作家アリストパネスは、ニケは黄金の二つの翼で飛ぶ、と登場人物に言わせている。

背に翼をもつ勝利の女神ニケ。
背に翼をもつ勝利の女神ニケ。『テラコッタのレキュトス(油壺)』 カールスルーエの画家 前460〜前450年ごろ メトロポリタン美術館Public Domain (The Met Open Access, CC0)

ところがアテナイのアクロポリスの入口には、「翼のない勝利の女神」の神殿があった。パウサニアスはその理由をこう説明する。スパルタ人が軍神の像を鎖でつないで逃げないようにしたのと同じ考えで、アテナイ人は翼のない勝利の女神を祀り、勝利がいつまでも自分たちのもとに留まるようにしたのだ、と。

この物語の出典: ヘシオドス『神統記』、作者不詳『ホメロス風讃歌』、アリストパネス『鳥』、パウサニアス『ギリシア案内記』、ナイキ『Nike 公式サイト』

この物語の人々

こういう風にも語られている

『神統記』で、オケアノスの娘ステュクスはティタンのパラスと交わり、ゼロス(競争心)と「美しいくるぶしの」ニケ、クラトス(力)とビア(暴力)を産む。勝利は、力や暴力と同じ家の兄弟姉妹として生まれる。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

『ホメロス風讃歌』の「アレス讃歌」はアレスを「戦の勝利の父」と呼ぶ。ヘシオドスの系譜とは違う。

作者不詳『ホメロス風讃歌』 前7〜6世紀頃

ローマ以後の語り

アテナイのアクロポリスの入口の右手には「翼のない勝利の女神」の神殿があった。パウサニアスは、スパルタ人が軍神エニュアリオスの像を鎖でつないで逃げないようにしたのと同じ考えで、アテナイ人は翼のない勝利の女神を祀り、勝利がいつまでも留まるようにした、と説明する。

パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀

ニケは大きな神像の手の上に小さく載る姿でも表された。パウサニアスによれば、アテナイのパルテノンのアテナ像は高さ4ペーキュスほどのニケ像を手に持ち、オリュンピアのゼウス像も右手に黄金と象牙のニケ像を持っていた。

パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀

もっと詳しく

ゼウスがティタンと戦う前に、味方する神には地位を保証すると呼びかけると、ステュクスが父オケアノスの計らいで子らを連れて最初にオリュンポスへ来た。ゼウスはステュクスを神々の誓いの証とし、その子らをいつも自分のそばに住まわせた。以来、勝利はゼウスの側を離れない。

ヘシオドス『神統記』 前700年頃

ホメロスの叙事詩には、勝利を人格化した女神ニケは登場しない。勝敗はゼウスの秤や神々の介入で決まる。

ホメロス『イリアス』 前8世紀頃

喜劇『鳥』では「ニケは黄金の二つの翼で飛ぶ、エロスもそうだ」と、翼のある神々の代表として名が挙がる。前5世紀末のアテナイでは、翼のあるニケの姿がすでにおなじみだったことがうかがえる。

アリストパネス『鳥』 前414年上演

ほかのつながり(1人)

家族・恋愛

今の言葉に残る

ナイキ / Nikeスポーツ用品会社ナイキは、公式サイトで「社名はギリシャの勝利の女神から取った」と説明している。女神ニケの名 Nike が、そのまま社名になっている。

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このページの出典(6件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『イリアス』
  2. 前700年頃ヘシオドス『神統記』
  3. 前7〜6世紀頃作者不詳『ホメロス風讃歌』
  4. 前414年上演アリストパネス『鳥』
  5. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  6. 2世紀パウサニアス『ギリシア案内記』