アポロドーロスでは六番目の功業。アルカディアのステュンパロスの町の、深い森に抱かれた湖に、オオカミに食われるのを恐れた無数の鳥が逃げこんでいた。追い出し方に困ったヘラクレスに、アテナがヘパイストスから受け取った青銅のカスタネット(クロタラ)を与え、湖を見下ろす山で打ち鳴らすと、鳥は音に耐えられず飛び立ち、ヘラクレスはそれを射落とした。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

Στυμφαλίδες ὄρνιθες怪物
空から襲いかかる怪鳥たちを、弓で射るヘラクレス。デューラーの絵。 『ステュンパロスの鳥と戦うヘラクレス』 アルブレヒト・デューラー 1500年Public domain
カスタネットのような鳴り物を打ち鳴らして、鳥の群れを追い払う。英雄ヘラクレスの数々の手柄の中に、そんな一風変わったものがある。ステュンパロスの鳥退治だ。
怪力では片づかなかったこの鳥たちが、いったいどんな相手だったのか、見ていこう。
ギリシャ南部アルカディアの町ステュンパロスには、深い森に囲まれた湖があった。オオカミに襲われるのを恐れて、そこへ数えきれないほどの鳥が逃げこんでいた。
この鳥たちを追い払え。それが、ヘラクレスに課された6番目の功業だった。ところが鳥は森の奥にこもっていて、どうやって追い出せばよいのか分からない。困った英雄に、女神アテナが青銅のカスタネットを渡した。鍛冶の神ヘパイストスから、女神がもらっていたものだ。ヘラクレスが湖を見下ろす山の上でそれを打ち鳴らすと、音に耐えられない鳥たちはあわてて飛び立った。そこを、英雄は矢で射落とした。

紀元前1世紀の歴史家ディオドロスは、この功業を知恵と工夫の手柄として語っている。鳥はとにかく数が多く、あたりの畑の実りを食い荒らしていた。力ずくではとても片づかない。そこでヘラクレスは青銅の鳴り物をこしらえ、すさまじい音を立て続けて、鳥たちを湖から追い払ったという。
2世紀の旅行家パウサニアスが現地で聞いた話では、これは人を食う鳥だった。ヘラクレスが射落としたとも言われるが、ある詩人は、殺さずに鳴り物の音で追い払っただけだと書いている、とパウサニアスは紹介している。
パウサニアスはさらに、今もアラビアの砂漠には、ステュンパロスの鳥と呼ばれる鳥がいると書き添えた。獅子や豹にも負けないほど人に荒々しく、狩りに来た者に飛びかかっては、くちばしで突いて殺してしまう。青銅や鉄の鎧も突き通すが、厚いコルクの服を着れば、くちばしが刺さって抜けなくなる。大きさは鶴ほどで、トキに似ているが、くちばしはもっと強く、曲がっていないという。
この鳥の話は、アルゴ船の冒険にも出てくる。金の羊毛を求めて黒海を進む英雄たちが、軍神アレスの島に近づいたときのことだ。一羽の鳥が飛んできて、鋭い羽根を矢のように放ち、漕ぎ手の肩に突き刺さった。仲間の一人が思い出す。あのヘラクレスでさえ、ステュンパロスの鳥を弓では追い払えず、青銅の鳴り物を振って音を立てたのだ、と。
そこで英雄たちは兜をかぶり、半分が漕ぎ、残りの半分が槍と盾で、屋根瓦を並べるように船を覆った。島に着いて盾を打ち鳴らすと、無数の鳥が逃げまどい、雹のように羽根を降らせながら、海の向こうの山へ飛び去った。ローマ時代の神話集では、アルゴ船の英雄たちを襲ったこの鳥たちも、ステュンパロスの鳥と呼ばれている。
ステュンパロスの町には、女神アルテミスの古い神殿があった。パウサニアスによれば、その屋根の近くにはこの鳥たちが彫られ、神殿の裏には、鳥の脚をもつ白い大理石の乙女たちの像が立っていたという。
この物語の出典: アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』、ディオドロス(シケリアの)『歴史叢書』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』、パウサニアス『ギリシア案内記』
アポロドーロスでは六番目の功業。アルカディアのステュンパロスの町の、深い森に抱かれた湖に、オオカミに食われるのを恐れた無数の鳥が逃げこんでいた。追い出し方に困ったヘラクレスに、アテナがヘパイストスから受け取った青銅のカスタネット(クロタラ)を与え、湖を見下ろす山で打ち鳴らすと、鳥は音に耐えられず飛び立ち、ヘラクレスはそれを射落とした。
アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃
ディオドロスでは、鳥は数えきれないほど多く、周りの土地の作物を荒らしていた。数が多すぎて力では退治できないため、ヘラクレスは自分で青銅のガラガラ(プラタゲ)をこしらえ、その大きな音で脅し続けて湖を空にした。知恵と工夫で果たした功業とされ、射殺は出てこない。
ディオドロス(シケリアの)『歴史叢書』 前1世紀後半
パウサニアスによれば、ステュンパロスの水辺にはかつて人食い鳥が棲み、ヘラクレスが射落としたと言われるが、カメイロスの詩人ペイサンドロスは、殺さずにガラガラの音で追い払っただけだとする。
パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀
パウサニアスは、アラビアの砂漠にもステュンパロスの鳥と呼ばれる鳥がいると記す。獅子や豹ほど人に荒々しく、狩人に飛びかかってくちばしで殺す。青銅や鉄の鎧を貫くが、厚いコルクの服には刺さって抜けない。大きさは鶴ほどでトキに似るが、くちばしはより強く曲がっていない。昔アラビアから一部がステュンパロスへ飛んできたのではないか、ヘラクレスの名声のせいでアラビアの鳥までこの名で呼ばれるのだろう、とパウサニアスは推測する。
パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀
ステュンパロスのアルテミスの古い神殿では、屋根の近くにステュンパロスの鳥が彫られ(パウサニアスは石膏でなく木の彫刻と判断した)、神殿の裏には鳥の脚をもつ白大理石の乙女像が立っていた。
パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀
ヒュギヌスでは、アルゴ船の一行がディアの島で、羽根を矢のように放つ鳥に襲われ、ピネウスの助言に従って盾と槍の音で追い払う。この章の題が「ステュンパリデス(ステュンパロスの鳥)」。ヘラクレスの功業の章でも、彼はアレスの島で、羽根を矢として放つステュンパロスの鳥を射殺したとされる。
ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』 1〜2世紀頃
パウサニアスによれば、オリュンピアのゼウス神殿の奥の間の扉の上に、ステュンパロスの鳥の功業が彫られていた。一方テバイのヘラクレス神殿の破風では、この鳥とエリスの国の掃除が外され、代わりにアンタイオスとの組み討ちが置かれていた。前540年ごろのアテネの壺には、投石器で鳥を狙うヘラクレスが描かれている(大英博物館 B163)。
パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀
アポロニオスでは、アルゴ船がアレスの島(アレティアス)に近づくと、島の鳥が鋭い羽根を放ち、オイレウスの肩を傷つけた。アンピダマスが、ヘラクレスもステュンパロスの湖の鳥を弓では追い払えず、高い見張り場で青銅のガラガラを振って音で追い払ったと思い出させ、英雄たちは兜をかぶり、盾と槍で屋根瓦のように船を覆い、盾を打ち鳴らして鳥を追い払った。鳥は雹のように羽根を降らせて飛び去る。
アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』 前3世紀