ギリシャ神話の地図
オデュッセウス訪れた英雄オデュッセウスの漂流旅の一場面キコネス族直前の相手ポリュペモス次の相手イタケ忘れさせた故郷
ロートスを食べた仲間を船へ引き戻すオデュッセウス。17世紀の版画。

ロートパゴイ(蓮を食う人々)

Λωτοφάγοι人間

ロートスを食べた仲間を船へ引き戻すオデュッセウス。17世紀の版画。 『ロートスを食べる人々の島のオデュッセウス』 テオドール・ファン・トゥルデン 1633年Public domain

オデュッセウスの漂流2 / 14

英語には「ロータス・イーター」という言葉がある。現実を忘れて心地よさにひたっている人のことだ。もとになったのは、英雄オデュッセウスが故郷へ帰る旅の途中で出会った、ある花の実を食べて暮らす人々である。

では、『オデュッセイア』に描かれたこの不思議な人々の話を見ていこう。

トロイア戦争が終わり、オデュッセウスの船団は故郷イタケを目指していた。ところがギリシャの南の岬を回ったところで、北風と潮の流れに押し流され、9日間、魚の多い海の上を漂った。10日目にたどり着いたのが、花の実を食べて暮らす人々の土地だった。

一行は上陸して水を汲み、浜で食事をとった。オデュッセウスは、ここに住むのはどんな人々か確かめるため、仲間を二人選び、伝令を一人つけて送り出した。

三人は、その土地の人々に出会った。人々は三人に危害を加えなかった。ただ、自分たちの食べているロートスという実を分け与えただけだった。

この実が、蜜のように甘かった。口にした者は、仲間のもとへ戻って報告することも、故郷へ帰ることも忘れてしまった。ただ、ここでこの人々と一緒に実を摘んで暮らしたい。それしか考えられなくなったのだ。

オデュッセウスは、泣いて嫌がる三人を力ずくで船まで引きずっていき、漕ぎ手の座る板の下に縛りつけた。そして残りの仲間に、急いで船に乗れと命じた。ほかにもロートスを口にして、帰る気持ちを失う者が出ないように。仲間たちはすぐに乗り込み、並んで座って、灰色の海を櫂で打った。

長い帰り道で、オデュッセウスたちは一つ目の巨人に仲間を食われ、魔女に豚に変えられ、怪物に襲われる。その中で、この人々だけは誰にも暴力を振るっていない。危ないのは人ではなく、甘い実そのものだった。

ロートスが何の植物だったのかは、『オデュッセイア』には書かれていない。「花の食べ物」「蜜のように甘い実」とあるだけだ。のちに歴史家ヘロドトスは、北アフリカのリビアに住む人々の食べるロートスの実を、ナツメヤシのように甘く、酒も造れる実として書き残している。

この物語の出典: ホメロス『オデュッセイア』、ヘロドトス『歴史』、ダグラス・ハーパー『オンライン語源辞典』

この物語の人々

もっと詳しく

キュテラ沖で9日間北風に流された先にある土地。旅の最初の「人ならざる世界」への入口として位置づけられる。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

彼らは偵察の3人を害さず、ロートスを分け与えただけである。『オデュッセイア』の敵の中で、暴力をまったく振るわない唯一の相手。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

蜜のように甘い実を食べた者は、帰ることも報告することも忘れ、ロートパゴイの中に留まって実を摘んでいたいと願うだけになる。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

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オデュッセウスは泣く彼らを力ずくで船まで引きずり、漕ぎ座の下に縛りつけ、他の者に急いで乗り込むよう命じた。指揮官が仲間の意志に反して助ける、作中で数少ない場面。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

ロートスが具体的にどの植物かはホメロスには書かれておらず、原文は「花の食べ物(ἄνθινον εἶδαρ)」「蜜のように甘い実」とだけ記す。実在の植物として描いたのはヘロドトスが早く、リビュアのロートパゴイの食べる実をナツメヤシの実のように甘く、酒も造ると説明する。ポリュビオスはさらに詳しく木と実の姿を述べ、メニンクス島(ジェルバ島)に彼らを置く。現代の植物学でナツメ属 Ziziphus lotus に当てるのは後世の同定である。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃、ヘロドトス『歴史』 前430年頃

マレア岬を回るところで波と潮と北風に押し戻され、9日間漂流し、10日目にロートパゴイの地に着いた。オデュッセウスは二人を選び、伝令を一人つけて偵察に送った。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

縛りつけたあと、オデュッセウスは他の仲間にロートスを食べて帰郷を忘れる者が出ないよう急いで乗船させ、仲間は並んで座り灰色の海を櫂で打った。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

今の言葉に残る

lotus-eater(ロートパゴス族/怠惰な享楽者)「現実を忘れて心地よさに浸る人」の意の英語(1812年)。『オデュッセイア』第9歌で、その実を食べると帰郷を忘れてしまうロートス(lotos)を常食する人々 lotophagoi にちなむ。英語 lotophagi はすでに1600年頃に見える。

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このページの出典(2件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『オデュッセイア』
  2. 前430年頃ヘロドトス『歴史』