出典 · ヘレニズム期
歴史叢書
ディオドロス(シケリアの) · 前1世紀後半 · Bibliotheca historica
神話時代から同時代までを扱うギリシャ語の世界史。4.7 でムーサ九柱の名の由来を一人ずつ説明し、4.21 と 5.71 でギガースとの戦いの場所をイタリアのクマエ近くの平野とする伝えを記す。
この出典が語っていること
アンタイオス
- ディオドロスでは、ヘラクレスはクレタから船でリビュアに渡り、体の強さと組み討ちの技で名高く、負かしたよそ者を殺していたアンタイオスに挑んで組みつき、殺した。その後リビュアの獣を退治して、耕作と植樹ができる土地にした。 (4.17.4)
- 関係: killed_by → herakles (アポロドーロス2.5.11、『イストミア祝勝歌』4.52-55、ディオドロス4.17.4、ヒュギヌス31)
カリオペ
- ディオドロスは、カリオペの名を「美しい声(カレー・オプス)を発すること」、つまり言葉の美しさで聞き手に受け入れられることに由来すると説明する。 (4.7.4)
クレイオ
- ディオドロスは、ムーサそれぞれの名に意味を当てはめ、クレイオの名は、詩によって称えられた人に大きな名声(クレオス)をもたらすことから来ていると説明する。前1世紀には、名前の意味から役割を説明する見方がすでにあった。 (4.7.3-4)
エラト
- ディオドロスは、エラトの名を、教育を受けた人を「慕わしく愛される(エパラストス)」者にすることから来ると説明する。 (4.7.4)
エウテルペ
- ディオドロスは、エウテルペの名を、教養のもたらす良いもので聞き手を「喜ばせる(テルペイン)」ことから来ると説明する。 (4.7.4)
ギガントマキア
- 戦場とされた「プレグラ」の場所は二つに分かれる。北ギリシャのパレネ半島とする伝え(ヘロドトスはパレネの旧名がプレグラだと書く)と、イタリアのクマエ近くの平野とする伝え。ディオドロスは、この平野がかつて火を噴いた丘(いまのウェスウィウス山)にちなんで「プレグライオン」と呼ばれたと書く。 (ヘロドトス 7.123.1。アポロドロス 1.6.1。ディオドロス 4.21.5-7, 5.71.4)
ヒッポリュテ
- ディオドロスでは、ヘラクレスはヒッポリュテの帯を持ってくるよう命じられてテミスキュラ近くに陣を張り、帯を求めたが拒まれて戦う。アエラ、ピリッピスら名のあるアマゾンを次々に倒し、捕らえた指揮官メラニッペを帯と引き換えに解放した。捕虜のアンティオペはテセウスに与えた。ヒッポリュテ本人は戦いに登場しない。 (4.16.1-4)
ラミア
- ディオドロスは、リビュアを進むオペラスの軍の道筋にあった、ツタにおおわれた大きな洞窟を、並はずれて美しい女王ラミアが生まれた場所として紹介する。生まれた子がみな死ぬと、女王はほかの女たちの子の幸せをねたみ、生まれたばかりの赤ん坊を母親の腕から奪って殺させた。その心の残酷さのために、顔がけもののように変わったという。ディオドロスは、自分の時代にもこの話は子どもたちのあいだに残り、その名は子どもにとって何より恐ろしいと書く。 (20.41.3-4(英訳 Geer、LacusCurtius))
- 『スーダ』は、サモスのドゥリスの『リビュア誌』2巻を引いて、ラミアはリビュアの美しい女で、ゼウスと交わったためにヘラにねたまれ、産んだ子をことごとく殺された、とする。悲しみのあまり醜い姿になり、ほかの者の子をさらって殺すようになった。ディオドロスの話には、ゼウスとヘラは出てこない。 (『スーダ』λ 84(英訳 Suda On Line。ドゥリス FGrH 76 F17)、ディオドロス20.41.3)
- ディオドロスは、ラミアがリビュア生まれである証人としてエウリピデスの詩句を引く。リビュア生まれのラミアの名を知らぬ者があろうか、人の世で最も忌まわしい名だ、という趣旨の一節で、どの劇かは書かれていない。 (20.41.6)
- ディオドロスは、目の話を合理的に説明する。女王は酒を飲むと、人々が何をしても見とがめず好きにさせたので、民は女王が目が見えないのだと思った。そこから、女王は目を瓶に投げ入れた、という作り話になった。酒に酔って何も見なくなることを、酒をはかる器にたとえたものだという。 (20.41.5)
メルポメネ
- ディオドロスは、メルポメネの名を、聞く人の心を引きつける「旋律(メロディア)」から来ると説明する。 (4.7.4)
パシパエ
- ホメロスの『イリアス』『オデュッセイア』にパシパエの名は出てこない。『オデュッセイア』の冥界の場面にはミノスの娘アリアドネやパイドラが登場するが、母の名は無い。王妃と牡牛の話が詳しく残るのは、ディオドロスやアポロドーロスなど後代の書き物。 (『オデュッセイア』11.321-325(パイドラ、アリアドネ)。英訳全文を検索して名が無いことを確認)
- ディオドロスは、ミノスが「ヘリオスとクレテの娘パシパエ」を娶ったと書き、母をクレテとする。 (4.60.4)
- アポロドーロスによれば、ミノスとの子は息子カトレウス、デウカリオン、グラウコス、アンドロゲオス、娘アカレ、クセノディケ、アリアドネ、パイドラ。ディオドロスはデウカリオン、カトレウス、アンドロゲオス、アリアドネを挙げる。 (アポロドーロス3.1.2、ディオドロス4.60.4。このデウカリオンは洪水のデウカリオンとは別人)
- ディオドロスでは、ミノスには毎年いちばん美しい牡牛をポセイドンにささげる習わしがあった。あるとき際立って美しい牡牛が生まれ、ミノスは劣った牛を代わりにささげた。怒ったポセイドンが妻パシパエに牡牛への恋をさせた、とする。 (4.77.2)
- ダイダロスは車輪のついた木の雌牛を作って中をくりぬき、はいだ牛の皮で包んで牡牛の牧場に置いた。パシパエが中に入ると、牡牛は本物の雌牛と思って交わった。 (アポロドーロス3.1.4、3.15.8。ディオドロス4.77.1(「牛に似せた仕掛け」))
- 生まれた子の姿は、アポロドーロスでは顔が牛で体の残りは人間。本名はアステリオスで、ミノタウロスと呼ばれた。ディオドロスでは肩から上が牛で、残りが人間。 (アポロドーロス3.1.4、ディオドロス4.77.3)
- ディオドロスは、木の牛のことでミノスに脅されたダイダロスが、パシパエの手助けで船を得てクレタを脱出したと書き、別伝として、パシパエがダイダロスをかくまい、ミノスが島中の船を探させたので翼を作って飛んで逃げた、という話も伝える。 (4.77.5、4.77.7-8)
- ディオドロスは、ヘラクレスが功業として生け捕りにしたクレタの牡牛を「パシパエが恋したと言われる牛」とする。アポロドーロスは、その牛をエウロペを運んだ牛とする説と、ポセイドンが海から送った牛とする説を併記する。ヒュギヌスも、ヘラクレスが「パシパエが交わった牡牛」をクレタから生け捕りにしてミュケナイへ連れてきたと記す。 (ディオドロス4.13.4、アポロドーロス2.5.7、ヒュギヌス30)
- 関係: child → helios (アポロドーロス1.9.1・3.1.2(母はペルセイス)、ヒュギヌス序文(ソルとペルサの子)、ディオドロス4.60.4(母はクレテ))
- 関係: parent → ariadne (アポロドーロス3.1.2、ディオドロス4.60.4)
- 関係: parent → minotaur (アポロドーロス3.1.4、ディオドロス4.77.3、『変身物語』8.155-156)
- 関係: punished_by → poseidon (アポロドーロス3.1.4、ディオドロス4.77.2。怒りの対象はミノスで、罰として王妃に牡牛への恋を吹き込む)
- 関係: rescued → daedalus (4.77.5 ミノスの怒りを恐れるダイダロスに船を与えて逃がす。4.77.7 別伝ではかくまう)
ポリュムニア
- ディオドロスは、ポリュムニアの名を、詩によって不滅の名声を得た人たちを「多くの賛歌(ポリュス・ヒュムネーシス)」で輝かせることから来ると説明する。 (4.7.4)
プリアポス
- パウサニアスによれば、ランプサコスの人々はプリアポスをディオニュソスとアプロディテの子と呼んだ。ディオドロスも古人の神話としてこの親子関係を伝え、酒に酔うと体が愛の喜びに向かいやすいから、というもっともらしい理由を添える。 (パウサニアス9.31.2、ディオドロス4.6.1)
- ディオドロスによれば、人々は町の神殿だけでなく田舎でもぶどう畑や庭にプリアポスの像を立てて番をさせ、よいものに呪いをかける者を罰する神とした。ディオニュソスをはじめ多くの神々の祭りで、笑いと戯れのうちに迎えられた。ウェルギリウスは、蜂の庭に、柳の鎌で泥棒と鳥を見張るヘレスポントスのプリアポスを置けと勧める。 (ディオドロス4.6.4、『農耕詩』4.109-111)
- ディオドロスは、エジプト人の伝えとして、ティタンたちに殺されて体を分けられたオシリスのうち、川に投げ捨てられて見つからなかった男根を、イシスが神として祀らせたのがプリアポスの起こりだ、という説も記す。 (4.6.3)
- ディオドロスは、この神をイテュパロス、テュコンと呼ぶ人もいると書く。ストラボンは、プリアポスをアッティカのオルタネ、コニサロス、テュコンといった神々に似ているとする。 (ディオドロス4.6.4、ストラボン13.1.12)
- 関係: child → dionysus (パウサニアス9.31.2、ディオドロス4.6.1(母はアプロディテ)、ストラボン13.1.12(母はニンフ))
- 関係: child → aphrodite (パウサニアス9.31.2(ランプサコスの人々の言い伝え)、ディオドロス4.6.1)
ステュンパロスの鳥
- ディオドロスでは、鳥は数えきれないほど多く、周りの土地の作物を荒らしていた。数が多すぎて力では退治できないため、ヘラクレスは自分で青銅のガラガラ(プラタゲ)をこしらえ、その大きな音で脅し続けて湖を空にした。知恵と工夫で果たした功業とされ、射殺は出てこない。 (4.13.2)
テルプシコレ
- ディオドロスは、テルプシコレの名を、教養から生まれる良いもので聞き手を「喜ばせる(テルペイン)」ことから来ると説明し、踊りには触れない。エウテルペの説明とほとんど同じになっている。 (4.7.4)
タレイア
- ディオドロスは、タレイアの名を、詩によって称えられた人が長い時代にわたって「栄える(タレイン)」ことから来ると説明する。 (4.7.4)
ウラニア
- ディオドロスは、ウラニアの名を、彼女に教わった人が名声と志によって魂を「天(ウラノス)」の高みへ引き上げられることから来ると説明する。ディオドロスはまた、ムーサそれぞれに作詩、旋律、舞踊、天文などの営みが割り当てられていると書く。 (4.7.3-4)