出典 · 古典期(悲劇・歴史)
オレステイア三部作(アガメムノン・供養する女たち・慈しみの女神たち)
アイスキュロス · 前458年 · Oresteia
アガメムノンの帰還と殺害、オレステスの復讐と裁判。
日本語訳: 久保正彰訳『アガメムノーン』岩波文庫、1998 · 原文・参考リンク ↗
この出典が語っていること
アガメムノン
- アイスキュロス『アガメムノン』(前458)では、クリュタイムネストラが自ら手を下す。浴室で出口のない衣をかぶせて三度打ち、返り血を浴びたことを誇って語る。アイギストスは殺害後に現れる脇役に後退している。ホメロスから約300年で主犯が入れ替わった。 (『アガメムノン』1372-1398)
- 関係: parent → iphigenia (『キュプリア』要約、『アガメムノン』184-249。ホメロスには登場しない)
- 関係: parent → electra (ホメロスには名が無い)
アポロン
- カッサンドラに予言の力を与えて言い寄ったが拒まれ、「誰にも信じてもらえない」という呪いを加えた。ホメロスはカッサンドラを美しい王女として挙げるだけで、予言者としては描かない。 (アポロドーロス 3.12.5。『アガメムノン』1202-1212。『イリアス』13.365-366, 24.699-702 では予言への言及が無い)
- 関係: suitor → cassandra (アポロドーロス 3.12.5。予言の力を与えたが拒まれ、誰にも信じられない呪いをかけた。『アガメムノン』1202-1212 でカッサンドラ自身が語る)
アトレウス
- アトレウスは和解を装ってテュエステスを招き、その三人の子を殺して料理し、父親に食べさせた。食べ終えてから手足を見せ、国外に追った。アイスキュロス『アガメムノン』ではアイギストス自身がこの話を語り、自分の復讐の理由として示す。 (摘要 2.13 / 『アガメムノン』1583-1602)
- この所業は、タンタロスの罪、ペロプスがミュルティロスにかけられた呪いに続く「アトレウス家の呪い」の一段として語られる。アガメムノンの殺害も、オレステスの母殺しも、この連鎖の続きとして説明される。 (摘要 2.1-2.14 / 『アガメムノン』1468-1512)
- 「アトレウス家(アトレイダイ)」という呼び方自体は『イリアス』からあり、アガメムノンとメネラオスを指す。呪われた一族という含みが加わるのは、悲劇が兄弟の争いを主題にして以降である。 (『イリアス』2.408-409 ほか / 『アガメムノン』全体)
アウリス
- 悲劇ではアウリスは待機と決断の場になる。アイスキュロス『アガメムノン』の合唱歌は、風の止んだ港で軍が飢えていく様子から犠牲までを一気に語る。エウリピデス『アウリスのイピゲネイア』は劇の全体をこの港に据える。 (『アガメムノン』184-249 / 『アウリスのイピゲネイア』全体)
カルカス
- アウリスでの逆風の原因をアルテミスの怒りと見抜き、イピゲネイアの犠牲を命じる役。『キュプリア』要約とアイスキュロス『アガメムノン』がこの役を与えるが、ホメロスは彼にこの役をさせていない。 (『キュプリア』要約(プロクロス)、『アガメムノン』198-204)
- 関係: enemy → iphigenia (『キュプリア』要約、『アガメムノン』198-204。犠牲を命じる)
カッサンドラ
- アポロンに求愛され、予言の力と引き換えに応じると約束しながら拒んだため、「予言は当たるが誰にも信じられない」呪いをかけられた。この経緯が語られる最も古い明確な典拠はアイスキュロス『アガメムノン』。 (『アガメムノン』1202-1212、アポロドーロス 3.12.5)
- アガメムノンの戦利品としてミュケナイへ渡り、クリュタイムネストラに殺される。『オデュッセイア』では死に際の声が語られ、アイスキュロスでは自分の死を予言しながら舞台に入っていく。 (『オデュッセイア』11.421-423、『アガメムノン』1035-1330 のカッサンドラの場)
- 関係: abducted_by → agamemnon (『アガメムノン』でミュケナイへ連れ帰られる。『オデュッセイア』11.421-423 でアガメムノンと共に殺される)
- 関係: killed_by → clytemnestra (『オデュッセイア』11.421-423、『アガメムノン』1440-1447)
クリュタイムネストラ
- アイスキュロス『アガメムノン』では自ら斧(あるいは剣)をふるい、返り血を「麦の実に降る雨のように喜んだ」と誇る。この場面以降、ヨーロッパの文学では「夫を殺した妻」として彼女が主犯になる。 (『アガメムノン』1372-1398)
- アイスキュロスは動機をイピゲネイアの犠牲への復讐として明示する。ホメロスにはイピゲネイアが存在しないため、この動機も存在しない。悲劇が付け加えた筋である。 (『アガメムノン』1412-1420, 1525-1529)
- オレステスによる母殺しを、ホメロスは明言しない。『オデュッセイア』3.306-310 はオレステスがアイギストスを討ったと語り、続けて「母と臆病なアイギストスの葬礼をアルゴス人に振る舞った」とだけ言う。母殺しを正面から劇にするのはアイスキュロス『供養する女たち』である。 (『オデュッセイア』3.306-310 / 『供養する女たち』889-930)
- 『アガメムノン』で彼女は、魚を捕る網のように逃げられない衣を夫にかぶせ、二度打って倒し、さらに三度目を加えたと語る。血しぶきを浴びて、天の雨に喜ぶ種まかれた大地のように喜んだという。 (『アガメムノン』1382-1392)
- 『供養する女たち』では、アイギストスの死を知って斧を求めるが、オレステスと向き合うと胸をはだけて憐れみを乞う。ピュラデスは「すべての人を敵にしても神々を敵にするな」と答え、彼女は「母の恨みの猟犬に気をつけよ」と警告し、自分が産んだのは蛇だったと夢を思い出す。 (『供養する女たち』889-930)
- 『慈しみの女神たち』では、彼女の亡霊が眠っている復讐の女神たちを叩き起こし、オレステスを追わせようとする。 (『慈しみの女神たち』94-139)
- 関係: parent → orestes (『オデュッセイア』1.29-43、『供養する女たち』)
- 関係: parent → electra (ホメロスには名が無い)
- 関係: killed_by → orestes (『供養する女たち』889-930)
デルポイ
- アイスキュロス『慈しみの女神たち』の冒頭で、デルポイの巫女は神託の座の主を、大地の女神、その娘テミス、ティタンのポイベ、そしてポイベから誕生の贈り物として受けたアポロンの順に挙げ、争いなく受け継がれたと語る。 (『慈しみの女神たち』1-19)
- 『慈しみの女神たち』では、母を殺したオレステスがデルポイの神殿に逃げ込み、へそ石の上に嘆願者として座る。周りでは復讐の女神たちが眠っており、それを見た巫女は恐れて這い出してくる。 (『慈しみの女神たち』34-63)
- 関係: owned_by → gaia (『慈しみの女神たち』1-2、パウサニアス10.5.5 最初の預言者)
- 関係: owned_by → themis (『慈しみの女神たち』2-6。アポロドーロス1.4.1 アポロンが来たとき神託を告げていたのはテミス)
- 関係: owned_by → phoebe (『慈しみの女神たち』6-8)
- 関係: visited_by → orestes (『慈しみの女神たち』34-45)
エレクトラ
- アイスキュロス『供養する女たち』では、父の墓に献酒に来て弟と再会し、復讐を後押しするが、殺害の場面には加わらない。劇の後半では姿を消してしまう。 (『供養する女たち』84-305)
- エウリピデス『エレクトラ』では、老人がアイスキュロス劇と同じ「墓の髪・足跡・織物」を持ち出すと、エレクトラが一つずつ理屈で否定する。結局は眉の傷跡で弟だと分かる。先行作の有名な場面を劇中で批判する、珍しい形の文学批評になっている。 (『エレクトラ』508-546(髪 524-530、足跡 531-535、織物 540-546)/ 『供養する女たち』168-234。最後の認知は眉の傷跡による(570 行台))
- アガメムノンは帰国した日に、妻クリュタイムネストラと愛人アイギストスに館の中で殺された。 (『オデュッセイア』11.405-434、『アガメムノン』1372-1398)
- 関係: child → agamemnon (『供養する女たち』124-151(父の墓への献酒))
- 関係: sibling → orestes (三作すべてで再会の場面が劇の要)
エリニュス
- アイスキュロス『慈しみの女神たち』では、エリニュスたちは自分を「夜の子」と名乗り、「母なる夜」に呼びかける。ヘシオドスの「ウラノスの血から」とは別の出自。 (『慈しみの女神たち』321-322, 416, 745)
- 『慈しみの女神たち』では、母クリュタイムネストラを殺したオレステスをデルポイからアテナイまで追う。巫女は眠る彼女たちを見て、女ではなくゴルゴンのようだと語る。アテナが開いたアレイオス・パゴスの法廷でオレステスが無罪になると、女神たちは怒るが、アテナに説得されてアテナイに住む「尊い女神たち」として祀られることになる。 (『慈しみの女神たち』46-59, 566-777, 778-1047)
- アテナは最後に自分はオレステスに票を投じると宣言し、票が同数となってオレステスは無罪になる。怒ったエリニュスたちが土地に毒を撒くと脅すと、アテナはアテナイに社と栄誉を約束して説得する。 (『慈しみの女神たち』734-753(同数なら無罪の取り決めは740-741)、778-891)
- デルポイの巫女は眠るエリニュスたちを見て、ゴルゴンのようだが翼が無く、黒く醜く、いびきをかき、目からおぞましい滴を垂らしていると語る。 (『慈しみの女神たち』46-56)
- 関係: child → nyx (『慈しみの女神たち』321-322, 416 「母なる夜」「我らは夜の子」)
- 関係: enemy → orestes (『慈しみの女神たち』全体。母殺しのオレステスを追う)
- 関係: advisee → clytemnestra (『慈しみの女神たち』94-139 クリュタイムネストラの亡霊が眠る女神たちを起こし、追跡をけしかける)
- 関係: enemy → apollo (『慈しみの女神たち』179-234 オレステスを守るアポロンと言い争う)
- 関係: advisee → athena (『慈しみの女神たち』778-1047 アテナの説得を受け入れ、アテナイに祀られる)
イピゲネイア
- アイスキュロス『アガメムノン』の合唱歌は、猿ぐつわをかまされて祭壇の上に山羊のように持ち上げられる娘を描く。救出は語られず、彼女は殺されたものとして扱われる。 (『アガメムノン』184-249(特に 228-247))
- 関係: child → agamemnon (『キュプリア』要約、『アガメムノン』184-249)
- 関係: enemy → calchas (犠牲を命じたのはカルカス)
パルナッソス山
- パウサニアスは、パルナッソスの頂は雲の上にあり、テュイアデスと呼ばれる女たちがそこでディオニュソスとアポロンのために熱狂すると書く。アイスキュロス『慈しみの女神たち』の巫女も、コリュキオンの岩屋のニンフと、この地を占めるディオニュソスに祈っている。 (パウサニアス10.32.7、10.6.4、『慈しみの女神たち』22-26)
オレステス
- アイスキュロス『供養する女たち』では、アポロンの神託に命じられて母を討つ。直後からエリニュエス(復讐の女神たち)に見え、追われて逃げる。『慈しみの女神たち』でアテナイのアレイオス・パゴスに法廷が開かれ、票が同数となってアテナの一票で無罪になる。私的な復讐を公的な裁判に置き換えた場面として読まれる。 (『供養する女たち』889-930, 1048-1062 / 『慈しみの女神たち』681-753)
- 姉エレクトラとの再会で使われる「しるし」が作家ごとに違う。アイスキュロスでは墓前の髪と足跡と織物、エウリピデス『エレクトラ』ではその三つを老人が持ち出すとエレクトラが一つ一つ理屈で否定してみせ、代わりに眉の傷跡で認める。悲劇が先行作を批評している珍しい例。 (『供養する女たち』168-234 / 『エレクトラ』508-546(三つのしるしの否定は 524-546))
- 関係: child → clytemnestra (『供養する女たち』)
- 関係: killed → clytemnestra (『供養する女たち』889-930)
- 関係: sibling → electra (『供養する女たち』168-234 の再会の場面)
- 関係: companion → athena (『慈しみの女神たち』681-710。アテナが法廷を設けて彼を裁く)
- 関係: companion → apollo (母殺しを命じ、裁判で弁護する(『供養する女たち』269-296、『慈しみの女神たち』576-680))
ペンテウス
- ホメロスとヘシオドスにはペンテウスの名が無い。ヘシオドス『神統記』はカドモスとハルモニアの娘としてアガウエの名を挙げるが、その子には触れない。現存する作品で筋が確かめられる最古のものは、エウリピデスの『バッコスの信女』(前405年上演)。それより前にアイスキュロスが、デルポイの巫女の口を借りて「バッコスの女たちを率いた神が、ペンテウスに兎のような死を縫い上げた」と、すでに知られた話として触れている。 (『神統記』975-978 /『バッコスの信女』/『エウメニデス』24-26。「名が無い」は現存本文の範囲での確認)
- 関係: enemy → dionysus (『バッコスの信女』215-262, 434-518 / 3.5.2 / Met. 3.513-733 /『エウメニデス』24-26)
ポイベ
- アイスキュロス『慈しみの女神たち』の冒頭で、デルポイの巫女は神託所の主の移り変わりを語る。最初はガイア、次にテミス、三番目にティタンのポイベが、誰にも強いられずに座についた。ポイベはこれを誕生の贈り物としてポイボス(アポロン)に与え、ポイボスはその名を祖母から受け継いだ、という。 (『慈しみの女神たち』1-8)
- 関係: grandparent → apollo (『神統記』406, 918-920(レトがゼウスとのあいだにアポロンとアルテミスを産む)。アイスキュロス『慈しみの女神たち』7-8 で神託所を孫に贈る)
- 関係: sibling → themis (『神統記』135-136。『慈しみの女神たち』2-8 ではテミスからデルポイの座を継ぐ)
タンタロス
- タンタロス→ペロプス→アトレウス→アガメムノン→オレステスという血筋が「呪われた家」として語られる。ただしホメロスはタンタロスの罰とアガメムノンの死を別々に語るだけで、両者を因果でつなげていない。因果の鎖として組み上げるのは悲劇とアポロドーロスの仕事である。 (『オデュッセイア』11.582-592 と 11.404-434 / 摘要 2.1-2.16 / 『アガメムノン』1468-1512)
テミス
- アイスキュロス『慈しみの女神たち』の冒頭で、デルポイの巫女は神託所の持ち主の順を、最初の予言者ガイア、その娘テミス、ポイベ、そして誕生祝いに譲られたポイボス(アポロン)と語る。アポロンより前にテミスが神託を預かっていたという伝え。 (『慈しみの女神たち』1-8。アポロドロス 1.4.1)
- 関係: companion → apollo (『慈しみの女神たち』1-8 ではガイア→テミス→ポイベ→アポロン(ポイボス)の順にデルポイの神託所が受け継がれる。アポロドロス 1.4.1 でもアポロンが来たときにはテミスが神託を下していた)