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ヒッポリュトス継子テセウス夫アリアドネ姉ミノス父アプロディテ愛の女神ミノタウロス異父弟アマゾン族先妻の国
寝台に横たわるパイドラと、そばの女たち。アレクサンドル・カバネルの作。

パイドラ

Φαίδρα人間

寝台に横たわるパイドラと、そばの女たち。アレクサンドル・カバネルの作。 『パイドラ』 アレクサンドル・カバネル 1880年 ファーブル美術館Public domain

母は、海の神が送った牡牛に恋をした。姉は、父の国を裏切って異国の王子を助けた。クレタの王女パイドラもまた、許されない恋に落ちる。相手は、夫の息子だった。

では、継子に恋をした王妃パイドラの物語を見ていこう。

パイドラは、クレタ島の王ミノスの娘である。母は、牡牛とのあいだに怪物ミノタウロスを産んだ王妃。姉は、糸玉を渡して英雄テセウスを迷宮から救った王女アリアドネ。そのパイドラが嫁いだ相手は、ほかでもない、アテネの王となったテセウスだった。兄が彼女をテセウスに嫁がせたという。二人のあいだには二人の息子が生まれた。

テセウスには、先の妻、女だけの戦士の国アマゾンの女王とのあいだに生まれた息子ヒッポリュトスがいた。狩りと処女の女神アルテミスを愛し、恋も結婚もばかにする若者である。

アテネの悲劇作家エウリピデスの劇では、パイドラの恋は、愛の女神アプロディテが仕掛けた罰だった。自分を軽んじるヒッポリュトスを罰するため、女神は継母の心に恋を吹き込んだのである。パイドラは、アテネで彼を見て恋に落ち、彼のいる町を見下ろす場所に、愛の女神の社まで建てた。

パイドラは、恋を誰にも打ち明けなかった。恥ずべき恋だと分かっていたからだ。はじめは黙って耐えようとし、次に自分を抑えて恋に勝とうとした。それもかなわないと知ると、死ぬことに決めた。3日のあいだ何も口にせず、床に伏せったまま、やつれていった。夫と子どもたちの名を汚すくらいなら、死んだほうがいい、と。

ところが、見かねた乳母が秘密を聞き出し、あろうことかヒッポリュトス本人に打ち明けてしまう。ヒッポリュトスは激しく怒り、女というものをののしった。恥と恐れに追い詰められたパイドラは、首を吊って死ぬ。その手には、夫あての書き板が残されていた。ヒッポリュトスに力ずくで辱められた、と。

帰ってきたテセウスはその言葉を信じ、海の神に息子の死を願った。海から現れた牡牛に馬を驚かされ、ヒッポリュトスは戦車ごと引きずられて死ぬ。すべてが明らかになったのは、そのあとだった。

海から現れた牡牛に馬がおびえ、ヒッポリュトスは戦車から投げ出される。
海から現れた牡牛に馬がおびえ、ヒッポリュトスは戦車から投げ出される。『ヒッポリュトスの死』 ピーテル・パウル・ルーベンス 1612年 コートールド・ギャラリーPublic domain

アポロドーロスの伝える形では、順序が違う。パイドラは生きているうちに、寝室の扉を壊し、衣を引き裂いて、ヒッポリュトスに襲われたと夫に訴えた。そして息子が死に、恋が明るみに出たあとで、首を吊った。

ローマの詩人オウィディウスは、悲劇が描かなかった側の声を書いている。パイドラが、ヒッポリュトスに宛てて自分の恋を打ち明ける手紙、という形の詩である。

この物語の出典: ホメロス『オデュッセイア』、エウリピデス『ヒッポリュトス』、オウィディウス『名婦の書簡』、アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』、ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』

この物語の人々

こういう風にも語られている

エウリピデスでは、乳母の仲立ちで恋を知ったヒッポリュトスに罵られたあと、パイドラは首を吊る。夫が帰る前に、「ヒッポリュトスに辱められた」と書いた書き板を手に残していた。訴えを残すのは死ぬ前。

エウリピデス『ヒッポリュトス』 前428年上演

アポロドーロスでは順序が逆で、パイドラは寝室の戸を壊し衣を裂いて、ヒッポリュトスに襲われたと生きたまま夫に訴える。ヒッポリュトスが死に、偽りが明るみに出たあとで首を吊る。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

ローマ以後の語り

ヒュギヌスも、拒まれたパイドラが夫に偽りを訴えて首を吊り、テセウスがネプトゥヌスに息子の死を願う、という形で要約する。

ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』 1〜2世紀頃

オウィディウスの『名婦の書簡』には、パイドラがヒッポリュトスに宛てて恋を打ち明ける手紙という形の詩がある。悲劇では語られない、口説く側の言葉として書かれている。

オウィディウス『名婦の書簡』 前15年頃

テセウスとの間にアカマスとデモポンを産んだ。この二人は後代の伝承でトロイア戦争にも加わる。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

アポロドーロスによれば、パイドラをテセウスに嫁がせたのは兄のデウカリオン。ミノスの子のこのデウカリオンは、洪水を生き延びたプロメテウスの子デウカリオンとは同名の別人。

アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』 1〜2世紀頃

もっと詳しく

ホメロスでは、オデュッセウスが冥界で見た女たちの一人として、プロクリス、アリアドネと並んで名が出るだけ。ヒッポリュトスとの話は語られない。

ホメロス『オデュッセイア』 前8世紀頃

エウリピデスでは、パイドラの恋は、自分を軽んじるヒッポリュトスを罰したいアプロディテの仕掛け。パイドラはアテナイで彼を見て恋に落ち、トロイゼンを望む場所にアプロディテの社を建てた、とアプロディテ自身が語る。

エウリピデス『ヒッポリュトス』 前428年上演

エウリピデスのパイドラは、恋を黙って隠し、次に自制で打ち勝とうとし、それもかなわないと知って死を選ぶ。3日間食を断って床に伏せる。夫と子の名を汚さないためだと語る。

エウリピデス『ヒッポリュトス』 前428年上演

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このページの出典(5件)
  1. 前8世紀頃ホメロス『オデュッセイア』
  2. 前428年上演エウリピデス『ヒッポリュトス』
  3. 前15年頃オウィディウス『名婦の書簡』
  4. 1〜2世紀頃アポロドーロス(偽アポロドーロス)『ビブリオテーケー(ギリシア神話)』
  5. 1〜2世紀頃ヒュギヌス『神話集(ファブラエ)』