パンドラの箱とパンドラの壺、どちらが本当?
開けてはいけない「パンドラの箱」。ところが、いちばん古い話を開くと、箱はどこにも出てこない。
もとは大きな甕
箱にしたのはエラスムス
箱が現れるのは、ずっと後の16世紀。人文学者エラスムスは、ラテン語の格言集『アダギア』の31番「愚か者は痛い目にあって賢くなる」の説明で、この話を語り直した。そこでゼウスは、この上なく美しいが、中にあらゆる災いを隠した小箱(ピュクシス)を持たせて、パンドラを送り出す。
中世〜格言集(アダギア)
美術史家のパノフスキー夫妻は、1956年の研究書で「『箱』の起源 ― ロッテルダムのエラスムス」という一章を立てています。
エラスムスの話では、開けたのは弟
希望は、どこに残ったか
日本語の辞典には、希望だけが「箱の底に」残った、と書くものもある。『仕事と日』で希望が残るのは、甕の縁の下です。飛び出す前に、ゼウスの意思で蓋が閉じられたからだった。
近現代精選版 日本国語大辞典古拙期仕事と日
この話の項目
- パンドラの壺(箱)パンドラが蓋を開け、人間にあらゆる災いを解き放った容器。ヘシオドスの原文では「箱」ではなく貯蔵用の大甕(ピトス)であり、「箱」はルネサンス期の訳し替えによって生じた。中に残ったエルピス(希望)の意味は古来議論が絶えない。
- パンドラ神々が造った最初の女。ゼウスが火を盗まれた代償として人間に送った「災いと引き換えの良きもの」であり、壺の蓋を開けてあらゆる災いを世に放った。ただし『神統記』では同じ女に名前が与えられていない。
- プロメテウスティタン族イアペトスの子で、人間の側に立ってゼウスを欺いた神。供犠の分け前をごまかし、火を盗んで人間に与えた。その報いに岩に縛られて鷲に肝臓を啄まれ、人間にはパンドラが送られる。
ほかの呼び名の話
- トロイ と トロイア同じ街を、トロイとも、トロイアとも呼ぶ。二つの呼び名は、どこで分かれたのか。
- ヴィーナス と アフロディテヴィーナスは、アフロディテの英語名。そう言い切ると、少し足りない。ヴィーナスには、ローマで別の女神として祀られていた時代がある。
- ゼウス と ジュピターギリシャのゼウスと、ローマのジュピター。まるで違う名前に見えるが、さかのぼると同じ言葉に行き着く。
- ヘラクレス と ハーキュリーズハーキュリーズは、ヘラクレスの英語名。ギリシャ語から英語へ渡るあいだに、名前はローマで一度、形を変えている。
- オデュッセウス と ユリシーズトロイとトロイアなら、まだ似ている。オデュッセウスとユリシーズは、同じ英雄の名とは思えないほど違う。
- メデューサ と メドゥサ見た者を石にする蛇の髪の怪物を、メデューサとも、メドゥサとも、メドゥーサとも書く。違いは、どの言葉の読み方を写したか。
- エロス と キューピッド弓矢を持った、翼のある男の子。キューピッドの姿でおなじみの恋の神は、ギリシャではエロスと呼ばれていた。
- アテナ と ミネルヴァ知恵の女神アテナは、ローマではミネルヴァと呼ばれる。ヴィーナスと同じく、こちらももとは別の女神だった。
- ポセイドン と ネプチューンギリシャのポセイドンは、ローマではネプチューンと呼ばれる。ところがローマの神は、もとは海の神ではなかった。
- アポロン と アポロヴィーナスやジュピターと違って、アポロンはローマに渡っても同じ神のままだった。変わったのは、名前の終わりの一音だけ。
- ヘラ と ジュノーゼウスの妻ヘラは、ローマではユノ、英語ではジュノー。6月のジューンにも、お金のマネーにも、この女神の名が隠れている。
- アルテミス と ダイアナ狩りの女神アルテミスは、ローマではディアナ、英語ではダイアナ。こちらも、もとはイタリアの森にいた別の女神だった。
- ヘルメス と マーキュリー伝令の神ヘルメスは、ローマではメルクリウス、英語ではマーキュリー。この名前は、ローマの商いの言葉から生まれた。
- アレス と マーズ戦の神アレスは、ローマではマルス、英語ではマーズ。ギリシャでは嫌われ者だった軍神が、ローマでは国を守る大神になった。
- クロノス と サターンわが子を呑み込んだ神クロノスは、ローマではサトゥルヌス、英語ではサターン。ローマでのこの神は、畑を耕すことを人間に教えた、黄金時代の王だった。
- ディオニュソス と バッカス酒の神バッカスを「ローマ神話の酒神」と書く辞典もある。けれども、もとはギリシャでのディオニュソスの別の呼び名だった。
- アキレウス と アキレス神話の英雄はアキレウス。けれど、かかとの腱も、亀と競走する話も「アキレス」だ。この一音の違いは、ラテン語から来ている。
- ハデス と プルート冥界の王ハデスは、ローマではプルート。この名前は、ローマ生まれではない。ギリシャ人が、恐ろしい本名を口にしないために使った呼び名だった。