ヴィーナスとアフロディテ、同じ女神?
ヴィーナスは、アフロディテの英語名。そう言い切ると、少し足りない。ヴィーナスには、ローマで別の女神として祀られていた時代がある。
ヴィーナスは英語の読み
ヴィーナスは、ローマの女神ウェヌス(Venus)を英語で読んだ名前です。辞典によってはヴェヌス、ヴィナスとも書く。英語のVenusは、金星の呼び名でもある。
近現代改訂新版 世界大百科事典近現代旺文社世界史事典 三訂版近現代山川 世界史小辞典 改訂新版近現代デジタル大辞泉
もとは菜園の女神
ただし、ウェヌスはアフロディテの名前をラテン語に移したものではありません。もとはローマの菜園を守る小さな女神だった。それがのちにギリシャのアフロディテと同じ女神と見なされ、愛と美の女神になっていく。
ローマでは古く、「禿頭のウェヌス」という奇妙な名で祀られていたことも知られています。
ローマ人の母になる
アフロディテと同じ女神になったことで、ウェヌスはローマの人々にとって特別な女神になりました。アフロディテの息子は、英雄アイネイアス。ローマの人々は、その子孫を名乗っていたからです。
前215年には、シチリアのエリクス山のウェヌスが、アイネイアスの子孫の母としてローマに迎えられた。のちにカエサルは、英雄の母ウェヌスを尊び、「母なるウェヌス」の壮大な神殿を建てています。
名前の由来も別々
アフロディテの名は、泡(アフロス)から来ている。泡から生まれたからこう呼ばれる、と『神統記』が由来まで説明しているほどだ。ウェヌスのほうは、ラテン語の「崇拝する」「恩恵」と同じ仲間の、宗教の言葉に属する語だという。呼び名が二つあるのは、もともと二柱の女神だったからです。
古拙期神統記近現代改訂新版 世界大百科事典近現代日本大百科全書(ニッポニカ)
この話の項目
ほかの呼び名の話
- トロイ と トロイア同じ街を、トロイとも、トロイアとも呼ぶ。二つの呼び名は、どこで分かれたのか。
- ゼウス と ジュピターギリシャのゼウスと、ローマのジュピター。まるで違う名前に見えるが、さかのぼると同じ言葉に行き着く。
- ヘラクレス と ハーキュリーズハーキュリーズは、ヘラクレスの英語名。ギリシャ語から英語へ渡るあいだに、名前はローマで一度、形を変えている。
- オデュッセウス と ユリシーズトロイとトロイアなら、まだ似ている。オデュッセウスとユリシーズは、同じ英雄の名とは思えないほど違う。
- メデューサ と メドゥサ見た者を石にする蛇の髪の怪物を、メデューサとも、メドゥサとも、メドゥーサとも書く。違いは、どの言葉の読み方を写したか。
- エロス と キューピッド弓矢を持った、翼のある男の子。キューピッドの姿でおなじみの恋の神は、ギリシャではエロスと呼ばれていた。
- パンドラの箱 と パンドラの壺開けてはいけない「パンドラの箱」。ところが、いちばん古い話を開くと、箱はどこにも出てこない。
- アテナ と ミネルヴァ知恵の女神アテナは、ローマではミネルヴァと呼ばれる。ヴィーナスと同じく、こちらももとは別の女神だった。
- ポセイドン と ネプチューンギリシャのポセイドンは、ローマではネプチューンと呼ばれる。ところがローマの神は、もとは海の神ではなかった。
- アポロン と アポロヴィーナスやジュピターと違って、アポロンはローマに渡っても同じ神のままだった。変わったのは、名前の終わりの一音だけ。
- ヘラ と ジュノーゼウスの妻ヘラは、ローマではユノ、英語ではジュノー。6月のジューンにも、お金のマネーにも、この女神の名が隠れている。
- アルテミス と ダイアナ狩りの女神アルテミスは、ローマではディアナ、英語ではダイアナ。こちらも、もとはイタリアの森にいた別の女神だった。
- ヘルメス と マーキュリー伝令の神ヘルメスは、ローマではメルクリウス、英語ではマーキュリー。この名前は、ローマの商いの言葉から生まれた。
- アレス と マーズ戦の神アレスは、ローマではマルス、英語ではマーズ。ギリシャでは嫌われ者だった軍神が、ローマでは国を守る大神になった。
- クロノス と サターンわが子を呑み込んだ神クロノスは、ローマではサトゥルヌス、英語ではサターン。ローマでのこの神は、畑を耕すことを人間に教えた、黄金時代の王だった。
- ディオニュソス と バッカス酒の神バッカスを「ローマ神話の酒神」と書く辞典もある。けれども、もとはギリシャでのディオニュソスの別の呼び名だった。
- アキレウス と アキレス神話の英雄はアキレウス。けれど、かかとの腱も、亀と競走する話も「アキレス」だ。この一音の違いは、ラテン語から来ている。
- ハデス と プルート冥界の王ハデスは、ローマではプルート。この名前は、ローマ生まれではない。ギリシャ人が、恐ろしい本名を口にしないために使った呼び名だった。