出典 · 古拙期(ヘシオドス・叙事詩圏)
小イリアス
レスケス(伝) · 前7世紀頃 · Little Iliad
叙事詩環。アキレウスの武具争い、アイアスの自殺、木馬の製作などを扱う。要約と断片のみ現存。
日本語訳: 中務哲郎訳『ホメロス外典/叙事詩逸文集』京都大学学術出版会(西洋古典叢書 G113)、2020。プロクロス梗概と断片の訳を収める
この出典が語っていること
大アイアス
- 『小イリアス』要約では、判定の後に狂ってアカイア勢の家畜を殺し、自害する。アポロドーロス摘要 5.6-5.7 も同じ筋で、アテナが狂気を送ったとする。 (『小イリアス』要約(プロクロス)、アポロドーロス摘要 5.6-5.7)
- 関係: enemy → odysseus (『オデュッセイア』11.543-564、『小イリアス』要約。武具争いの相手)
アンドロマケ
- 落城後はアキレウスの子ネオプトレモスの取り分となる。エウリピデス『トロイアの女』では、息子を奪われる場面とともに描かれる。 (『小イリアス』要約、『トロイアの女』709-798)
- 関係: abducted_by → neoptolemus (『小イリアス』要約で戦利品として与えられる。『トロイアの女』274-277)
アキレウスの武具
- アキレウスの死後、この武具をめぐってアイアスとオデュッセウスが争い、オデュッセウスが得る。『小イリアス』の要約は「アテナの企みによって」と書く。敗れたアイアスは狂って家畜を殺し、自害する。 (『小イリアス』要約 / 『オデュッセイア』11.538-565 / 摘要 5.6-5.7)
- 誰が判定したかは伝承で違う。『小イリアス』要約は「アテナの企み」でオデュッセウスが得たとし、アポロドーロス摘要 5.6 は判定者をトロイア人、異説では同盟軍だとする。『小イリアス』の断片には、城壁の下で立ち聞きしたトロイアの娘たちの言い争いで決めたという形も伝わる。 (『小イリアス』要約(プロクロス)と断片2(アリストパネス『騎士』1056 への古註が引く)/ 摘要 5.6「判定者はトロイア人、あるいは同盟軍」)
- オデュッセウスは、争って手に入れたこの武具を、スキュロスから連れてきたアキレウスの息子ネオプトレモスに渡す。一人の男の自殺の原因になった武具が、あっさり本来の相続人に渡されるところが淡々としている。 (『小イリアス』要約(プロクロス))
- 関係: owned_by → odysseus (『オデュッセイア』11.543-564、『小イリアス』要約。争いに勝って得る(二組目))
- 関係: owned_by → neoptolemus (『小イリアス』要約。オデュッセウスから渡される)
アステュアナクス
- 誰が殺したかは出典で異なる。『小イリアス』では、ネオプトレモスがヘクトルの子を掴んで塔から投げたとされる。ただしこれはプロクロスの要約ではなく引用断片に残る形で、パウサニアスもレスケス(『小イリアス』の作者とされる)が塔から投げ落とされたと記していると伝える。 (『小イリアス』断片14(リュコプロン1268への古注が引く)。プロクロスの要約にはこの件は無い。パウサニアス 10.25.9 も参照)
- 関係: participated_in → sack-of-troy (落城の夜に殺される)
- 関係: killed_by → neoptolemus (『小イリアス』断片14(リュコプロン『アレクサンドラ』1268 への古註が引く行)。「アキレウスの輝かしい子が…足を掴んで塔から投げ落とした」。一方『イリオスの陥落』のプロクロス要約は「オデュッセウスがアステュアナクスを殺す」とし、下手人には異説がある)
デイポボス
- パリスの死後、ヘレネを妻とした。『小イリアス』要約では、ヘレノスと争って勝ち取ったとされる。『イリアス』の時点ではこの結婚はまだ起きていない。 (プロクロス要約)
- 関係: spouse → helen (『小イリアス』要約でパリスの死後にヘレネを娶る。『オデュッセイア』4.276 で木馬を巡るヘレネに付き添う)
ディオメデス
- 『小イリアス』の要約では、オデュッセウスとともにトロイアに忍び込み、守護神像パラディオンを持ち出す。落城の前提条件とされる。 (『小イリアス』要約(プロクロス))
- レムノスに置き去りにされたピロクテテスを連れ戻す役は、出典によって違う。『小イリアス』要約ではディオメデスだが、ソポクレス『ピロクテテス』ではオデュッセウスとネオプトレモスである。同じ出来事の実行者が入れ替わる分かりやすい例。 (『小イリアス』要約 / ソポクレス『ピロクテテス』1-134)
- 関係: companion → odysseus (『イリアス』10巻の夜襲、『小イリアス』要約のパラディオン奪取)
- 関係: companion → philoctetes (『小イリアス』要約では、レムノスからピロクテテスを連れ戻すのは彼)
ヘレネ
- 乞食に化けてトロイアへ忍び込んだオデュッセウスに気づいたのはヘレネだけで、彼女は正体を明かさないと誓った。ヘレネはこのとき心がすでに帰郷に向き、アプロディテに惑わされたことを悔いていた、と回想する。 (『オデュッセイア』4.240-264、『小イリアス』要約)
- 叙事詩環『小イリアス』には、落城の夜にヘレネの胸を目にしたメネラオスが剣を投げ捨てた、という場面があったと伝わる。 (断片13(アリストパネス『女の平和』155 とその古註、エヴリン=ホワイト訳))
- 関係: spouse → deiphobus (パリスの死後に再婚。『小イリアス』要約、『オデュッセイア』4.276)
ネオプトレモス
- 父の死後、オデュッセウスがスキュロス島から呼び寄せた。『小イリアス』要約では、オデュッセウスが連れてきて父の武具を与え、アキレウスの亡霊が彼の前に現れる。 (『オデュッセイア』11.508-509 / 『小イリアス』要約(プロクロス))
- ヘクトルの幼子アステュアナクスを城壁から投げ落とした者は、出典で入れ替わる。『小イリアス』の断片ではネオプトレモスが自ら投げるが、『イリオスの陥落』の要約ではオデュッセウスが殺す。 (『小イリアス』断片 / 『イリオスの陥落』要約)
- 関係: owner → armor-of-achilles (『小イリアス』要約。オデュッセウスが争って得た父の武具を彼に渡す)
- 関係: killed → astyanax (『小イリアス』断片。『イリオスの陥落』要約ではオデュッセウスが手を下す(諸説))
パラディオン
- ヘレノスが明かした「トロイアを落とす条件」の一つがパラディオンを盗むことだった。オデュッセウスは身をやつして物乞いとして城内に入り、ヘレネに気づかれながらも協力を得て像を盗み出し、ディオメデスとともに船へ運んだ。『小イリアス』の要約では、この盗みのすぐあとに木馬が作られる。 (アポロドロス『摘要』5.10、5.13。『小イリアス』プロクロス要約)
- 関係: stolen_by → odysseus (盗み出された。『小イリアス』プロクロス要約、アポロドロス『摘要』5.13、『アエネイス』2.163-168)
- 関係: stolen_by → diomedes (オデュッセウスと二人で盗み出す。『アエネイス』2.164「テュデウスの子」)
パリス
- 関係: killed_by → philoctetes (『小イリアス』要約、アポロドーロス摘要 5.8。ヘラクレスの弓で射られる)
ピロクテテス
- 『小イリアス』の要約では、捕らえたヘレノスの予言に従い、ディオメデスがレムノスからピロクテテスを連れ戻す。医者マカオンが傷を治し、彼はパリスとの一騎打ちに勝つ。 (『小イリアス』要約(プロクロス))
- 関係: companion → diomedes (『小イリアス』要約では、ディオメデスがレムノスから連れ戻す)
- 関係: killed → paris (『小イリアス』要約。一騎打ちでアレクサンドロス(パリス)を射殺す)
トロイア落城
- 関係: participant → astyanax (城壁から投げ落とされる。下手人には異説がある)
シノン
- 関係: participated_in → sack-of-troy (『イリオスの陥落』プロクロス要約「先に偽って城内に入っていたシノンが火の合図を上げる」。『小イリアス』断片(リュコプロン注解 344)。アポロドロス『摘要』5.19 はアキレウスの墓で合図の火を焚いたとする)
トロイア戦争
- 発端から帰還までは「叙事詩環(エピック・キュクロス)」と呼ばれる一群の詩が埋めていた。『キュプリア』(発端〜開戦)、『アイティオピス』(アキレウスの死)、『小イリアス』(武具争い〜木馬)、『イリオスの陥落』(落城)、『帰還』(諸将の帰路)、『テレゴネイア』(オデュッセウスの後日談)。いずれも散逸し、プロクロスの要約と断片からしか内容が分からない。「よく知られた話」の多くが、実はこの失われた詩の要約に由来する。 (プロクロス『文学便覧』の要約)
アイネイアスの漂流
- 叙事詩環『小イリアス』の断片では、トロイア陥落のあとアイネイアスはネオプトレモスの捕虜として船に乗せられる。地中海をさまよう旅そのものが語られない伝え方もあった。 (断片(ツェツェス『リュコプロン注解』1268 所引)。アンドロマケとともに「ギリシャ人の誰よりもすぐれた褒美」として船に乗せられる)