ギリシャ神話の地図
ゼウス主人プロメテウス警告者イオ旅人アテナ像の主スフィンクス隣り合う怪物
猪を爪でつかむグリフィン。12世紀の動物の本の挿絵。

グリュプス

γρύψ怪物

猪を爪でつかむグリフィン。12世紀の動物の本の挿絵。 『グリフィン(ワークソップの動物寓意譚)』 作者不詳(写本の挿絵) 1185年ごろ モルガン・ライブラリー(M.81)Public domain

ワシの頭と翼に、ライオンの体。グリフィン、あるいはグリフォンと呼ばれるこの怪物は、ギリシャ語ではグリュプスという。辞書にも「ギリシャ神話の怪物」として載っている。

ただ、古代ギリシャの書き物に出てくるグリュプスは、英雄が退治しに行く怪物ではない。人の住む世界のずっと外側で、地中の金を守っている獣として語られている。

話の出どころは、北の果てからの言い伝えだ。紀元前5世紀の歴史家ヘロドトスによれば、ヨーロッパの北には、飛びぬけて多くの金がある。その金は、一つ目の人々がグリュプスから盗んでくるのだという。

ヘロドトスは、ある古い詩人の詩も紹介している。北の遠い民のさらに向こうに一つ目の民が住み、その向こうに金を守るグリュプスがいて、さらにその先に、北風のかなたの民が住む。話は北の民からスキタイ人へ、スキタイ人からギリシャ人へと伝わった。一つ目の民の名は、スキタイの言葉で「一つの目」という意味だ、とヘロドトスは説明する。もっとも本人は、目が一つしかない人間がいるという話を信じていなかった。

悲劇の中にも、グリュプスは顔を出す。アイスキュロスの『縛られたプロメテウス』で、岩に縛りつけられたプロメテウスは、ゼウスに愛されたせいでアブに追われ、世界をさまよう娘に、これから先の道のりを教える。そのとき、近づいてはならない相手として挙げるのが、くちばしの鋭い、吠えないゼウスの猟犬、つまりグリュプスと、金の流れる川のほとりに住む一つ目の騎馬の民だった。

馬に乗った男に、白いグリュプスが襲いかかる。前4世紀の壺絵。
馬に乗った男に、白いグリュプスが襲いかかる。前4世紀の壺絵。『テラコッタのペリケ(壺)』 ギリシャ(アッティカ) 前4世紀第3四半期 メトロポリタン美術館Public Domain (The Met Open Access, CC0)

グリュプスの姿は、神殿の中にもあった。2世紀の旅行家パウサニアスは、アテネのパルテノン神殿に立つ金と象牙の女神アテナ像を見ている。兜の真ん中にはスピンクス、その両側にはグリュプスが浮き彫りにされていた。パウサニアスはここで先の詩人の話を引き、グリュプスはライオンに似て、ワシのくちばしと翼をもつ獣で、地中から出る金をめぐって一つ目の民と争う、と書き添えている。

別の箇所でパウサニアスは、グリュプスにはヒョウのような斑点がある、という話も聞いたと記す。そしてすぐに、不思議な話を好む人は自分でも不思議を付け足し、本当のことに嘘を混ぜて台無しにする、とぼやいている。

1世紀の博物学者プリニウスも、一つ目の民とグリュプスが金をめぐって果てしなく争っているという話を紹介した。ただし鳥の巻では、耳が長く、くちばしの曲がったグリュプスを、作り話の鳥に数えている。

信じるかどうかは別として、ギリシャ人はこの姿を好んだ。ヘロドトスは、交易で大もうけしたサモス島の人々が、利益の10分の1で青銅の大釜を作らせ、ヘラの神殿に納めたことを書いている。その縁には、ぐるりとグリュプスの頭が突き出していた。

大釜の縁に付けられていたグリュプスの頭。前7世紀半ばの青銅製。
大釜の縁に付けられていたグリュプスの頭。前7世紀半ばの青銅製。『青銅の大釜につけたグリュプスの頭部』 ギリシャ 前7世紀半ば メトロポリタン美術館Public Domain (The Met Open Access, CC0)

この物語の出典: アイスキュロス(伝)『縛られたプロメテウス』、ヘロドトス『歴史』、大プリニウス『博物誌』、パウサニアス『ギリシア案内記』、小学館『デジタル大辞泉』

この物語の人々

ローマ以後の語り

パウサニアスは、パルテノン神殿の金と象牙のアテナ像の兜に、中央にスピンクス、両側にグリュプスの浮き彫りがあったと記す。そこでアリステアスの詩を引き、グリュプスはライオンに似てワシのくちばしと翼をもち、地中から出る金をめぐってアリマスポイと戦うと説明する。

パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀

パウサニアスは「グリュプスにはヒョウのような斑点がある」という話を聞いたと記し、不思議な話を好む者は自ら不思議を付け足して真実を損なう、と評している。

パウサニアス『ギリシア案内記』 2世紀

プリニウスは、北方の一つ目の民アリマスポイが、鉱山から金を掘り出して守るグリュプスと絶えず争っているという話を、ヘロドトスとアリステアスを典拠に紹介する。一方、鳥の巻では、耳が長く曲がったくちばしのグリュプスを作り話の鳥に数え、金の巻でも「スキタイでグリュプスが掘る金」に触れている。

大プリニウス『博物誌』 77年

現代日本の辞書は「グリュプス」を見出しにし、頭と翼はワシ、胴はライオンの怪物で、グリフィン・グリフォンとも呼ぶと説明する。

小学館『デジタル大辞泉』 随時改訂

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ヘロドトスは、ヨーロッパの北に最も多くの金があり、一つ目の人々アリマスポイがグリュプスから金を盗むと言われる、と記す。ただし、目が一つで他は普通の人間と同じ民がいるという話は信じない、と断っている。

ヘロドトス『歴史』 前430年頃

最古の典拠として名が挙がるのは、プロコンネソスのアリステアスの詩(現存しない)。ヘロドトスの要約では、イッセドネス人の向こうに一つ目のアリマスポイ、その向こうに金を守るグリュプス、さらにその先にヒュペルボレオイ(北風のかなたの民)が住む。

ヘロドトス『歴史』 前430年頃

一つ目の民とグリュプスの話は、イッセドネス人からスキタイ人を経てギリシャ人に伝わった、とヘロドトスは言う。アリマスポイの名はスキタイ語の arima(一)と spou(目)から、という説明を添える。

ヘロドトス『歴史』 前430年頃

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アイスキュロスの『縛られたプロメテウス』では、プロメテウスがさまようイオに道のりを教える中で、くちばしの鋭い「吠えないゼウスの猟犬」グリュプスと、金の流れる川のほとりに住む一つ目の騎馬の民アリマスポイに近づくなと警告する。

アイスキュロス(伝)『縛られたプロメテウス』 前5世紀

ヘロドトスは、サモス島の人々が交易の利益の10分の1(6タラントン)で、縁のまわりにグリュプスの頭が突き出した青銅の大釜を作り、ヘラの神殿に奉納したと記す。グリュプスが飾りの意匠として好まれた証言。

ヘロドトス『歴史』 前430年頃

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グリフォン(griffin、gryphon)鷲の頭と翼に、獅子の体を持つ空想の生き物。英語の griffin は、古いフランス語やラテン語を経て、ギリシャ語の gryps(グリュプス)から来ていて、もとは「曲がった、かぎ鼻の」という意味で、くちばしの形を指したらしい。英語では1200年ごろから人の姓として記録がある。語源辞典によれば、ギリシャ神話ではスキュティアに住み、その地の金を守る生き物とされた。紀元前5世紀の歴史家ヘロドトスも、ヨーロッパの北の果てで金を守る獣として書き留めている。

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このページの出典(5件)
  1. 前5世紀アイスキュロス(伝)『縛られたプロメテウス』
  2. 前430年頃ヘロドトス『歴史』
  3. 77年大プリニウス『博物誌』
  4. 2世紀パウサニアス『ギリシア案内記』
  5. 随時改訂小学館『デジタル大辞泉』