出典 · 古拙期(ヘシオドス・叙事詩圏)
女たちのカタログ(エーホイアイ)断片
ヘシオドス(に帰される) · 前6世紀頃 · Catalogue of Women (Ehoiai), fragments
英雄の母系をたどる系譜詩。原典は失われ、後代の引用・パピルスからの断片のみ。断片番号は Merkelbach-West(M-W)版による。
この出典が語っていること
アイアコス
- 島でひとりきりのアイアコスのため、ゼウスが蟻を人間に変えた(アポロドーロス、ヘシオドスの断片)。ヒュギヌスでは、ヘラが水に蛇を送って毒を入れたため民が死に、アイアコスの願いでゼウスが蟻を人に変えて、ギリシャ語で蟻を「ミュルメケス」ということからミュルミドネスと名づけた。オウィディウスでは疫病の原因はヘラ(ユノ)の怒り。パウサニアスは、アイアコスが民を求めるとゼウスが地から人々を生え出させた、というアイギナの伝えを記す。 (アポロドーロス3.12.6、『カタログ』断片(エヴリン=ホワイト53)、ヒュギヌス52、『変身物語』7.523-657、パウサニアス2.29.2)
- 関係: ruler → myrmidons (アポロドーロス3.12.6、『変身物語』7.614-657、『カタログ』断片(エヴリン=ホワイト53) ゼウスが蟻を人に変えてアイアコスの民とする)
デウカリオン
- 石から生まれた人々を「ラオイ(民)」と呼ぶのは、石(ラース)にかけた語呂合わせだと古代から言われていた。ピンダロスがすでにこの語呂合わせを使い、ヘシオドス断片も、ゼウスが大地から拾った石をデウカリオンに民として与えたと歌う。ヒュギヌスも同じ説明を繰り返す。 (ピンダロス『オリュンピア祝勝歌』9.43-46、ヘシオドス断片 M-W fr. 234 / Evelyn-White fr. 82(ロクロスとレレゲス人)、ヒュギヌス 153)
- ホメロスにはデウカリオンの洪水が出てこない。『イリアス』に出るデウカリオン(13.449-450)はミノスの子で、クレタの王イドメネウスの父という別人。ピュラの夫のデウカリオンが文献に現れるのはヘシオドスの名で伝わる系譜詩の断片と、前5世紀のピンダロスから。 (『イリアス』13.449-450(ゼウス→ミノス→デウカリオン→イドメネウスの系譜)。ヘシオドス断片 Evelyn-White fr. 1、ピンダロス『オリュンピア祝勝歌』9.41-53)
- 関係: child → prometheus (アポロドーロス 1.7.2。ヘシオドス断片(M-W fr. 2 / Evelyn-White fr. 1、アポロニオス古註の引用)は母をプロノイアとする)
- 関係: parent → hellen (アポロドーロス 1.7.2(ゼウスの子とする説も併記)、ヘシオドス断片 Evelyn-White fr. 1、トゥキュディデス 1.3.2)
エンデュミオン
- ホメロスとヘシオドスの『神統記』には、エンデュミオンの名は出てこない。最も古い言及はヘシオドスに帰される『女たちのカタログ』の断片で、アエトリオスとカリュケの子エンデュミオンが、ゼウスから「死ぬときを自分で決める」特権を与えられたという。この断片はアポロニオス『アルゴナウティカ』への古い注釈に引用されて残った。 (断片番号は M-W 245 とされる(Evelyn-White 版では断片8)。アポロニオス 4.57 への古注所引。M-W 番号は原本で未確認)
エリュシクトン
- 最も古い形は、ヘシオドスに帰される『女たちのカタログ』のパピルス断片とされる。そこでは娘メストラの話が中心で、父は飢えにちなむ「アイトン(燃える者)」の名で呼ばれ、姿を変えられる娘を何度も売っては食べ物に替えたという。 (断片43a M-W とされる。本文と番号を未確認)
ヘカテ
- パウサニアスによれば、ヘシオドスの『女たちのカタログ』は、イピゲネイアは死なずにアルテミスの意志でヘカテになった、と語っていた。 (パウサニアス 1.43.1 所引)
ヘレン
- アポロドーロスによれば、それまでグライコイと呼ばれていた人々を、ヘレンが自分の名にちなんでヘレネスと呼ぶようにした。英語 Greek は、この「前の名」の側、ラテン語 Graeci(ギリシャ語 Graikoi)から来ている。ヘシオドスの名で伝わる断片には、デウカリオンの娘パンドラがゼウスとの間にグライコスを産んだという系譜もある。 (アポロドーロス 1.7.3。etymonline「Greek」(ラテン語 Graeci ← ギリシャ語 Graikoi)。ヘシオドス断片 M-W fr. 5 / Evelyn-White fr. 2(パンドラとグライコス))
- ニンフのオルセイスとの間にドロス、クストス、アイオロスの3人の息子をもうけた。ドロスの子孫がドーリス人、アイオロスの子孫がアイオリス人、クストスの子アカイオスとイオンからアカイア人とイオニア人の名が出た、とされる。部族の起源を一つの家系にまとめた系図。 (アポロドーロス 1.7.3。ヘシオドス断片 M-W fr. 9 / Evelyn-White fr. 4「戦を好む王ヘレンからドロス、クストス、馬を好むアイオロスが生まれた」(アポロニオス古註の引用))
- 父はデウカリオン、母はピュラ。ヘシオドスの名で伝わる系譜詩でもそうなっている。 (アポロドーロス 1.7.2、ヘシオドス断片 Evelyn-White fr. 1)
- 関係: child → deucalion (アポロドーロス 1.7.2、ヘシオドス断片 Evelyn-White fr. 1、トゥキュディデス 1.3.2)
- 関係: child → pyrrha (アポロドーロス 1.7.2、ヘシオドス断片 Evelyn-White fr. 1)
イオ
- アポロドーロスによれば、ヘラに見つかったゼウスはイオに触れて白い牝牛に変え、「この娘とは交わっていない」と誓った。ヘシオドスはこの話を根拠に「恋のために立てた誓いは神々の怒りを招かない」と言ったという。 (2.1.3(ヘシオドスの原文は断片としてアポロドーロス経由で伝わる))
ミュルミドン人
- ヘシオドスの『女たちのカタログ』の断片では、アイアコスが若者になって島でひとりきりなのを嘆くと、神々と人間の父が美しい島の蟻をすべて男たちと帯の広い女たちに変えた。彼らは初めて船に漕ぎ座を付け、帆を使った人々だという。断片は、ピンダロス『ネメア祝勝歌』3.21 への古注が「ミュルミドン人についてヘシオドスはこう言う」として引く。 (エヴリン=ホワイト訳 断片53(Merkelbach-West 205))
- 関係: created_by → zeus (『カタログ』断片(エヴリン=ホワイト53)、『変身物語』7.614-654、アポロドーロス3.12.6 蟻を人間に変える)
ピュラ
- 関係: parent → hellen (アポロドーロス 1.7.2、ヘシオドス断片 Evelyn-White fr. 1)
サテュロス
- ヘシオドスの断片(ストラボンの引用)では、ヘカテロスとポロネウスの娘から生まれた5人の娘から、山のニンフたちと「役立たずで働くに向かないサテュロスの一族」、踊る神々クレテスが出たとされる。サテュロスの最も古い言及の一つ。 (ストラボン10.3.19(ヘシオドス断片、Rzach 198))
テュンダレオス
- 娘たち(ヘレネ、クリュタイムネストラ、ティマンドラ)が夫を裏切ったのは、テュンダレオスが犠牲を捧げる際にアフロディテを忘れたためだという伝承がある。ヘシオドスに帰される『女たちのカタログ』の断片が、怒った女神が娘たちに悪い評判を負わせたと歌う。同じ話はステシコロスにも帰される。 (断片176 M-W。エウリピデス『オレステス』249 への古註が、ステシコロスの同趣旨の伝え(犠牲でアフロディテを忘れた)とあわせて引く)