出典 · 古典期(悲劇・歴史)
バッコスの信女
エウリピデス · 前405年上演 · Bacchae
エウリピデスの遺作。ディオニュソスがテバイに自らの神性を認めさせる悲劇。
この出典が語っていること
アクタイオン
- エウリピデス『バッコスの信女』では、カドモスが孫ペンテウスをいさめて、アクタイオンは「狩りの腕ではアルテミスより上だ」と豪語したため、自分で育てた猟犬に八つ裂きにされたのだ、と言う。 (337-340)
- 関係: enemy → artemis (Met. 3.138-252 / 3.4.4 / 『バッコスの信女』337-340)
アガウエ
- エウリピデスの形(前405年上演): セメレの姉妹たちは、セメレが人間の男の子を宿してゼウスのせいにしたと中傷した。怒ったディオニュソスは彼女たちを狂わせてキタイロン山へ追いやる。祭儀を覗こうと木に登ったペンテウスを見つけると、アガウエが先頭に立って襲い、息子が頭の紐を外して「母上、私です」と頼んでも聞き入れず、足で息子の脇腹を押さえて肩から腕を引きちぎった。イノとアウトノエ、他の女たちも加わった。 (26-42, 1114-1136)
- 正気に戻る場面: アガウエは息子の首を「罠も使わずに捕らえた若い獅子」の首と思い込み、テュルソスに刺して誇らしげにテーバイへ持ち帰る。父カドモスは「まず空を見よ、前と同じか」と一つずつ問いかけて娘の心を現実に引き戻し、ついに彼女は自分が抱えているのが息子の首だと知る。この後の嘆きの部分は写本に欠落がある。 (1168-1300(獅子 1173-1175、空を見よ 1264-1270)。欠落は 1329 の後)
- その後: 『バッコスの信女』の結末で、ディオニュソスはカドモス一家に追放を言い渡し、カドモスとハルモニアは蛇に変わって異国の民を率いると予言する。ヒュギヌスでは、正気に戻ったアガウエはテーバイを逃れてイリュリアのリュコテルセス王のもとに身を寄せる。別の箇所では、アガウエがそのリュコテルセスを殺して王国を父カドモスに与えたとされ、「夫を殺した女たち」の一覧にも名が挙がる。 (『バッコスの信女』1330-1370 / 『神話伝説集』184, 240, 254)
- 正気を失ったアガウエは、息子の首を獲物として父カドモスに見せ、館に飾って宴を開くよう求める。 (1233-1243)
- 関係: child → cadmus (『神統記』975-976 / 3.4.2 /『バッコスの信女』1216-1300)
- 関係: parent → pentheus (『バッコスの信女』507 / 3.5.2 / Met. 3.725 / 『神話伝説集』184。夫はスパルトイ(竜の歯から生まれた戦士)の一人エキオン(『バッコスの信女』538-541, 1274 / Met. 3.126))
- 関係: killed → pentheus (『バッコスの信女』1114-1147 / 3.5.2 / Met. 3.710-731 / 184)
- 関係: sibling → ino-leucothea (『神統記』976 / 3.4.2 /『バッコスの信女』1129-1130 ペンテウス殺しに加わる)
- 関係: uncle_aunt → dionysus (姉妹セメレの子。3.4.2-3 /『バッコスの信女』26-31)
- 関係: punished_by → dionysus (『バッコスの信女』26-42 セメレを中傷した罰に狂わされる / 3.5.2)
ディオニュソス
- エウリピデスの遺作では、自らの神性を否定したテバイ王ペンテウスを、母アガウエ自身の手で八つ裂きにさせる。神を拒む者への報復が主題になっている。 (1-63(神としての登場)、1043-1152(ペンテウスの死))
ハルモニア
- 蛇への変身: エウリピデス『バッコスの信女』の結末で、ディオニュソスはカドモスとハルモニアが蛇に変わり、牛の引く車で異民族を率いて多くの町を攻めるが、最後はアレスに守られて祝福された者たちの地へ移されると予言する。アポロドーロスでは、二人はイリュリアでエンケレイス人を率いて勝ち、のちに蛇に変えられてエリュシオンの野に送られる。オウィディウスでは、年老いて不幸の続いた家を離れイリュリアへ流れ着いたカドモスが、殺した竜の祟りなら自分も蛇になりたいと願って蛇に変わり、妻もそれに続いて、二匹は森へ這っていった。 (『バッコスの信女』1330-1339 / 3.5.4 / Met. 4.563-603)
- 関係: child → ares (『神統記』933-937 / 3.4.2 /『バッコスの信女』1332, 1357-1358「アレスの娘ハルモニア」)
- 関係: spouse → cadmus (『神統記』937, 975 / 3.4.2 /『バッコスの信女』1330-1339)
- 関係: grandparent → pentheus (娘アガウエの子。3.4.2, 3.5.2)
- 関係: visited → elysium (3.5.4 カドモスと共に蛇に変えられ、ゼウスによってエリュシオンの野へ送られる /『バッコスの信女』1338-1339「祝福された者たちの地」)
ペンテウス
- ホメロスとヘシオドスにはペンテウスの名が無い。ヘシオドス『神統記』はカドモスとハルモニアの娘としてアガウエの名を挙げるが、その子には触れない。現存する作品で筋が確かめられる最古のものは、エウリピデスの『バッコスの信女』(前405年上演)。それより前にアイスキュロスが、デルポイの巫女の口を借りて「バッコスの女たちを率いた神が、ペンテウスに兎のような死を縫い上げた」と、すでに知られた話として触れている。 (『神統記』975-978 /『バッコスの信女』/『エウメニデス』24-26。「名が無い」は現存本文の範囲での確認)
- 名前が運命を示す: 『バッコスの信女』で、テイレシアスはカドモスに「ペンテウスがあなたの家に悲嘆(penthos)を持ち込まぬよう気をつけよ」と言い、ディオニュソスも名乗ったペンテウスに「その名は不運にふさわしい」と返す。名前そのものが悲劇の予告として使われている。 (367-369, 507-508)
- エウリピデスの形: 若い王ペンテウスは、町の女たちが山で狂乱の祭儀をしていると聞いて怒り、人間の姿をした「リュディアから来た異国人」(実はディオニュソス)を捕らえる。しかし神にそそのかされて、女装して祭儀を覗き見に行き、神が引き下ろした高い木の上にいるところを見つけられる。先頭に立って襲ったのは母アガウエで、彼が頭の紐を外して「母上、私です」と頼んでも聞き入れられず、腕を引きちぎられた。 (215-262, 434-518, 912-976, 1043-1147(木 1061-1075))
- 母には何に見えたか: エウリピデスでは、アガウエは息子の首を「若い獅子」の首と思い込み、テュルソスの先に刺してキタイロン山から持ち帰る。オウィディウスでは、アガウエは姉妹に「われらの畑をうろつくあの大猪を打て」と叫んで襲いかかる。アポロドーロスは、単に獣と思ったとする。 (『バッコスの信女』1139-1142, 1173-1175 / Met. 3.713-715 / 3.5.2)
- いとこ同士の悲劇: ペンテウスとディオニュソスは、共にカドモスの孫で、母同士(アガウエとセメレ)が姉妹のいとこにあたる。同じくカドモスの孫でアウトノエの子のアクタイオンも、キタイロン山で自分の猟犬に引き裂かれて死んでおり、『バッコスの信女』のカドモスは、その死を引き合いに出してペンテウスを諫める。 (3.4.2-4, 3.5.2 /『バッコスの信女』337-340)
- ペンテウスは捕らえた異国の若者(ディオニュソス)を馬小屋に閉じ込めて縛ろうとするが、実際に縛ったのは牡牛だった。 (616-622)
- 女装して町を出るペンテウスは、太陽が二つ、テバイが二つに見えると言い、案内する若者に牛の角が生えて見えると口にする。 (918-922)
- 関係: child → agave (『バッコスの信女』507, 1118-1119 / 3.5.2 / Met. 3.725 / 『神話伝説集』184)
- 関係: killed_by → agave (『バッコスの信女』1114-1147 / 3.5.2 / Met. 3.710-731 / 184)
- 関係: grandchild → cadmus (『バッコスの信女』213-214 カドモスが国を譲った孫 / 3.5.2)
- 関係: enemy → dionysus (『バッコスの信女』215-262, 434-518 / 3.5.2 / Met. 3.513-733 /『エウメニデス』24-26)
- 関係: cousin → dionysus (母アガウエとディオニュソスの母セメレは姉妹。3.4.2-3)
- 関係: advisee → tiresias (『バッコスの信女』266-369 新しい神を受け入れよと諭されるが退ける / Met. 3.511-527)
- 関係: cousin → actaeon (Met. 3.719-720 八つ裂きにされながら叔母アウトノエに「アクタイオンの影に心を動かして」と叫ぶ /『バッコスの信女』229-230, 337-340)
- 関係: ruler → thebes (『バッコスの信女』43-44, 213-214 / 3.5.2)
セメレ
- 雷に焼かれる死: アポロドーロスでは、ゼウスは何でも願いを聞くと約束しており、ヘラに欺かれたセメレは「ヘラに求婚したときの姿で来て」と頼む。断れないゼウスは雷光と雷鳴と共に戦車で現れ、セメレは恐怖で息絶えた。ゼウスは火の中から6か月の胎児を取り出して自分の腿に縫い込み、月が満ちてからディオニュソスを産んだ。 (3.4.3 /『バッコスの信女』88-100)
- 姉妹の中傷: エウリピデス『バッコスの信女』冒頭で、ディオニュソスは、母の姉妹たちが「セメレは人間の男の子を宿しておきながらゼウスのせいにした、それはカドモスの企みで、だからゼウスに打たれたのだ」と言いふらしたと怒り、その罰として彼女たちを狂わせて山へ追いやったと語る。アポロドーロスにも同じ中傷が出てくる。これがペンテウスの悲劇の発端になる。 (『バッコスの信女』26-42 / 3.4.3)
- くすぶり続ける墓: 『バッコスの信女』では、テーバイの王宮の近くにセメレの墓と焼けた家の跡が残り、ゼウスの火がまだ生きた炎としてくすぶっている。カドモスはそこを聖域とし、ディオニュソスは葡萄の房のつく葉でその周りを覆った。 (6-12)
- 関係: child → cadmus (『神統記』940, 975-976 / 3.4.2 /『バッコスの信女』1-2)
- 関係: parent → dionysus (『イリアス』14.325 /『神統記』940-942 /『バッコスの信女』1-3 / 3.4.3)
- 関係: killed_unintentionally_by → zeus (約束に縛られたゼウスが雷光と共に現れ、その火に焼かれる。3.4.3 / Met. 3.293-309 /『バッコスの信女』6-9, 88-93)
- 関係: sibling → agave (『神統記』976 / 3.4.2 /『バッコスの信女』26-31)
- 関係: uncle_aunt → pentheus (姉妹アガウエの子。3.4.2, 3.5.2)
テーバイ
- 関係: visited_by → dionysus (1-63 セメレの子ディオニュソスが生まれ故郷テーバイに帰ってくる)