出典 · 古典期(悲劇・歴史)
アルケスティス
エウリピデス · 前438年上演 · Alcestis
夫アドメトスの身代わりに死ぬ妻アルケスティスを、ヘラクレスが死神タナトスと格闘して連れ戻す悲劇。タナトスが登場人物として舞台に現れる(24-76)。357-362 ではオルペウスの冥界下りにも触れる。行番号で参照する。
この出典が語っていること
アドメトス
- ゼウスが息子アスクレピオスを雷で打ち殺したことに怒り、アポロンは雷を鍛えたキュクロプスたちを殺した。その罰としてアポロンは1年間、人間であるアドメトスの家で奉公した。アポロドーロスは、アポロンの世話で牛がみな双子を産んだと伝える。 (『アルケスティス』1-10、アポロドーロス 3.10.4)
- アポロンは運命の女神たちを欺いて、アドメトスの死の日が来たとき誰かが代わりに死ねば助かる、という約束を取りつけた。父も年老いた母も断り、代わりに死ぬと言ったのは妻だけだった。 (『アルケスティス』10-18、アポロドーロス 1.9.15)
- エウリピデスの劇では、アドメトスは妻の死を嘆きながらも、訪ねてきたヘラクレスを追い返さず、喪中であることを伏せてもてなす。この客人への礼がヘラクレスを動かし、妻が戻る。一方で、父ペレスからは「妻を死なせてまで生き延びた」となじられる。 (ヘラクレスの到着と歓待は劇の中盤、ペレスとの口論は614-733付近。行番号は未確認)
- 関係: spouse → alcestis (『イリアス』2.711-715、エウリピデス『アルケスティス』、アポロドーロス 1.9.15)
- 関係: master → apollo (『アルケスティス』1-10、アポロドーロス 3.10.4。キュクロプスを殺した罰で、アポロンが1年間アドメトスに仕えた)
- 関係: companion → herakles (客として迎えたヘラクレスが、恩返しに死神と組み合ってアルケスティスを連れ戻す。1140-1143)
- 関係: enemy → thanatos (24-76 死神タナトスが妻を連れに来る)
アルケスティス
- アドメトスの死の日が来たとき、父も母も身代わりを断り、妻アルケスティスだけが代わりに死ぬと言った。 (『アルケスティス』15-18、アポロドーロス 1.9.15)
- エウリピデスでは、ヘラクレスが墓のそばで待ち伏せ、死神タナトスを腕で捕らえて彼女を取り返す。戻った彼女は、冥界の神々への清めが済む3日目まで口をきけない、とされる。 (1140-1146)
- エウリピデスでは、ディオメデスの馬を取りに行く途中のヘラクレスがアドメトスの館に立ち寄り、アドメトスは妻の死を隠して、死んだのは身寄りのないよその女だと言って客をもてなす。悲しみを知れば客は入らなかったからだという。真相を知ったヘラクレスは、苦境にあっても自分を追い返さなかった主人に報いるため、墓のそばでタナトスを待ち伏せすると決める。のちにヴェールをかぶせた女を競技の褒美だと言って預け、ヴェールを取ると妻だった。 (476-567、816-860、1006-1146)
- 関係: spouse → admetus (『イリアス』2.711-715、エウリピデス『アルケスティス』、アポロドーロス 1.9.15)
- 関係: abducted_by → thanatos (24-76 死神タナトスが連れに来る。1140-1143 ヘラクレスが墓のそばでタナトスから取り返す)
- 関係: rescued_by → herakles (ヘラクレスに死から連れ戻される。『アルケスティス』1140-1146、アポロドーロス 1.9.15)
アナンケ
- エウリピデス『アルケスティス』の合唱隊は、詩と思索をきわめても必然より強いものは見つからず、オルペウスのトラキアの書き板にも、アポロンがアスクレピオスの子らに与えた薬草にも癒やす力はない、と歌う。この女神だけは祭壇も像もなく、いけにえも顧みない。ゼウスが定めることも彼女の助けで成就し、カリュベス人の鉄さえ力でねじ伏せる、とも。 (962-983(Kovacs 英訳))
カロン
- 前5世紀のアテナイでは、カロンは舞台でもおなじみの存在だった。エウリピデス『アルケスティス』では、死にゆくアルケスティスが、竿を手に湖に浮かぶ二本櫂の舟から「何をぐずぐずしている」と急かすカロンの幻を見る。アリストパネスの喜劇『蛙』では、冥界へ行くディオニュソスがカロンの舟で湖を渡り、渡し賃は「2オボロス」とされる。 (『アルケスティス』252-257 /『蛙』139-141(渡し賃)、180 以下(カロン登場))
- 関係: servant → hades (冥王の領域の渡し守。『アエネイス』6.298-304 /『アルケスティス』252-257, 361)
オルペウス
- 前438年のエウリピデス『アルケスティス』で、妻を失うアドメトスは「もしオルペウスの声と歌があれば、ペルセポネかその夫を歌で魅了して、あなたを冥界から連れ戻すのに」と嘆く。振り返って失敗する話には触れていない。 (357-362)
- ウェルギリウス以前には、オルペウスが妻を連れ戻すことに成功する形があったのではないか、という説がある。根拠に挙げられるのはエウリピデス『アルケスティス』の言い方などだが、確かな証拠はなく、議論が分かれている。 (研究者の議論(Gantz 等)の該当箇所を未確認)
タナトス
- エウリピデス『アルケスティス』の冒頭で、夫アドメトスの身代わりに死ぬことになったアルケスティスを連れに来たタナトスに、アポロンが猶予を求める。タナトスは「若い者の命を取るほうが誉れが大きい」と拒み、アポロンは、やがてある男がお前から彼女を力ずくで奪うだろう、と予言する。 (24-76)
- 予言どおり、アドメトスの館に客として来たヘラクレスが事情を知り、墓のそばで黒衣の死者の王タナトスを待ち伏せて取り押さえ、アルケスティスを連れ戻す。ヘラクレスは「死霊たちの主と格闘した」と語る。死の神が力で負かされる、珍しい筋書き。 (837-860, 1140)
- 関係: enemy → apollo (24-76 アルケスティスを迎えに来たタナトスとアポロンが言い争う)
- 関係: enemy → herakles (837-860(844 で墓のそばでタナトスを待ち伏せると決める), 1140 「死霊たちの主と格闘して」アルケスティスを取り戻したと語る)