出典 · ヘレニズム期
牧歌(エイデュリア)
テオクリトス · 前3世紀前半 · Idylls
牧人の歌を集めた詩集で、牧歌というジャンルの祖。第11歌・第6歌でキュクロプスのポリュペモスがガラテイアに恋する。
日本語訳: 古澤ゆう子訳『牧歌』京都大学学術出版会(西洋古典叢書)、2004 · 原文・参考リンク ↗
この出典が語っていること
アキス
- アキスという名の川は、オウィディウスより前のテオクリトスにすでに出てくる。第1歌で、牧人テュルシスがやせ衰えて死んだダプニスを悼み「エトナの見張り場にも、アキスの聖なる水にもいなかったのか」とニンフに呼びかける。ただしテオクリトスのポリュペモスとガラテイアの歌(第6歌・第11歌)には恋敵アキスは登場しない。アキスを恋の三角関係に置いたのは、現存する資料ではオウィディウスが最初とされる。 (『牧歌』1.69 / 第6歌・第11歌にアキスの名はない(本文で確認)。「オウィディウスが最初」は研究書で未確認)
アルキュオネ
- オウィディウスは、冬の穏やかな7日間、アルキュオネが海に浮かぶ巣で卵を温め、そのあいだ父アイオロスが風を外に出さず、孫たちのために海を凪がせる、と結ぶ。英語の halcyon days は、冬至のころの14日間の凪をいう言い方で、実際のカワセミの習性とは関係がない。オウィディウスより前、前3世紀のテオクリトスも、カワセミは波と南風と東風を鎮める鳥で、海のネレイデスに最も愛された鳥だと歌っている。 (Met. 11.744-748 / etymonline の halcyon の項 /『牧歌』7.57-60。日数は出典で違い、オウィディウスは7日、英語の成句は14日とする。語源記事 etymologies/halcyon-days も参照)
エンデュミオン
- ヘレニズム期の詩では、エンデュミオンの眠る場所は小アジアのカリア地方、ラトモス山の洞窟になる。アポロニオス『アルゴナウティカ』では、月の女神が「ラトモスの洞窟へさまよって行き、美しいエンデュミオンに焦がれるのは私ひとりではない」と、メデイアの恋を見てつぶやく。テオクリトスも、月が牛飼いのエンデュミオンを愛し、オリュンポスから降りて彼のそばで眠った、と歌う。 (『アルゴナウティカ』4.57-58 /『牧歌』20.37-39、3.49-50(「覚めない眠りを眠るエンデュミオンがうらやましい」))
- 関係: lover → selene (アポロドーロス 1.7.5 /『アルゴナウティカ』4.57-58 / テオクリトス『牧歌』20.37-39 / パウサニアス 5.1.4)
ガラテイア
- ポリュペモスがガラテイアに恋する話は、前3世紀のテオクリトスの牧歌で知られる形になる。第11歌では、ひげが生え始めたばかりの若いポリュペモスが、浜の岩に座って「凝乳よりも白いガラテイア」に歌いかけ、歌うことで恋の病を癒やす。第6歌では、ガラテイアのほうが林檎を投げて彼の羊の群れをからかう。ホメロスの人食い巨人が、ここでは恋に悩む牧人になっている。 (第11歌 7-21(凝乳より白い 11.20)、72-81 / 第6歌 6-10。前5世紀末の詩人ピロクセノスの『キュクロプス』が先行するとされるが、断片のみで未確認)
- 2世紀のルキアノスの小対話では、ネレイデスの姉妹ドリスが、一つ目の羊飼いに好かれてうぬぼれるガラテイアをからかう。「あの人がほめたのは白い肌だけ。チーズや乳に似ているからでしょう」と。ガラテイアの白さを乳にたとえるのは、テオクリトス以来の言葉遊び。 (ルキアノス『海神たちの対話』1 /『牧歌』11.20)
- 関係: courted_by → polyphemus (『牧歌』11、6 / Met. 13.755-869 / ルキアノス『海神たちの対話』1(ドリスとガラテイア))
ヒュアキントス
- 神話の「ヒュアキントス」の花は、今のヒヤシンス(Hyacinthus 属)とは限らない。古代のこの語は紫か濃い赤の花を指すが、どの花かは分かっておらず、グラジオラス、アイリス、ヒエンソウなどが候補に挙がる。今の植物の属名として使われ始めたのは1570年代。「花びらに文字がある」という言い方は、オウィディウスより前、前3世紀のテオクリトスの「文字の書かれたヒュアキントス」に見える。 (etymonline の hyacinth の項 / テオクリトス『牧歌』10.28 γραπτὰ ὑάκινθος。語源記事 etymologies/hyacinth も参照)
プリアポス
- テオクリトス『牧歌』第1歌では、牧人たちが泉の女神たちとプリアポスの像の向かいに腰を下ろして歌う。歌の中では、恋に苦しんで死にかけた牛飼いダプニスのもとへプリアポスもやって来て、なぜやつれているのかと声をかける。 (1.21-22、1.81-91)